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第66話 自分を信じて
「はぁっ、はぁっ、はぁ……。何だったんだ今のは。魔神銃がアタシの拳を覆った。よく分からないけど、凄い威力のパンチだった」
ルカは右の拳を見るが、魔神銃の触手は無くなり元の瘤の姿に戻っている。
「タケル。生きてたのか。アタシはてっきりあの世に逝ったのかと思ったよ」
「ふざけんな!勝手に殺すなよ!それより、こいつはくたばったのか……?」
「全力で攻撃したけど、多分死んではいないと思う。とりあえず気絶したみたいだ……」
ハヤテも目を覚ます。
「大丈夫か……、二人とも」
「とどめを刺そう。こいつが意識を取り戻したら、終わりだ。戦う体力が無い」
「あんた……、倒れている奴に攻撃したくないんじゃなかったの……?アタシ達が頼むなら分かるけど、自分から言っていいの?」
「知らん!忘れた!今はそんな事、言ってる場合じゃない!余計なツッコミを入れてくれるな!」
ハヤテは、リンネにとどめを刺す為、刀を✕字に構えた。
しかしその時、リンネは真っ赤な目を見開いて立ち上がり、ハヤテの刀を取り上げた。
「こいつ……、もう目を覚ましやがったっ!!!体に穴が空いてやがるのに!もうダメだ……。三人とも戦う力なんか残ってないぞ!!」
リンネの動きは衰えるどころか、更に殺気を増している。取り上げた刀でハヤテの右肩を突き刺した。
「ヤッテクレタナァ!!!コロシテヤル!!!キサマラ、ゼンインコロシテヤルカラナー!!!」
右肩を刺されたハヤテは膝から崩れ落ちる。ハヤテを助けようとルカが飛びかかったが、裏拳を食らい吹き飛ばされた。
リンネは飛んで吹き飛んだルカを追いかけ、持っていた刀で胸を貫く。
「うわあぁぁぁぁぁっ!!!!」
リンネは胸から刀を引き抜き、休む事なく滅多刺しにする。狂気に満ちた目を見開きながら、ひたすら刺し続ける。
「ぐっ………!くそっ…………」
ルカはたまらず、繭を張って身を守った。しかし、リンネの力は恐ろしくいとも簡単に繭を引き裂いていく。
「ヤバい。マジでヤバい……。なにか奴を倒す方法はないのか……。ルカの繭もそんなに長い間もちそうにない。なんとかしないと……」
「すまない、タケル。奴に刀を持って行かれた。俺にはあいつを倒す手段が無い……」
タケルは、内ポケットから銃を取り出した。
「今、あいつを倒せるとしたら、この爆裂弾しかない。上手く当たるか分からないが……。もし、かわされたら本当に終わりだ……」
「そうだっ!ハヤテっ!俺にその刀を貸してくれ!」
「かまわないが、これ一本じゃ炎は出せないぞ。何をする気なんだ……」
「いいから、貸してくれ!必ずやってみせる!!」
タケルは、全身骨折の痛みに耐えながら、銃と刀を手にリンネに向かってゆっくりと歩き出した。
「おっ、お前っ!何考えているんだ!!後一発でも殴られたら本当に死ぬぞ!」
「じゃあ、仲間が滅多刺しにされてるのを、黙って見てるのか!!そんな事、出来る訳ねぇだろ!!」
ハヤテが止めるのを聞かず、タケルは最後の力を振り絞り走って行った。
それに気付いたルカは繭をといて、刀を素手で握りしめリンネの動きを止める。ルカの両手からは血が溢れ出した。
リンネはルカを刺すのに必死で、タケルの接近に気が付いていない。
「おいっ!こらっ!化け物!こっちだ!!」
タケルに気付いたリンネは、刀に力を混めてルカの胸に押し込んだ。胸を貫かれたルカは意識を失くしてしまう。
リンネが振り返ったと同時に、タケルはコートを投げつけて視界を遮り爆裂弾を発射した。
弾丸はリンネを直撃。大きな爆発音を立てて激しい炎がリンネを襲う。悲鳴を上げ、炎に包まれながらもまだ死んでいない。怨魔に変化したリンネは、爆裂弾の威力を持ってしても倒しきれなかった。
リンネは恐ろしい執念で、体に炎を纏いながらタケル目掛けて走って行く。炎への恐怖も忘れる程の殺意。
「やれる!俺はやれる!やらないと皆を守れない!」
タケルは両手で刀を持ちリンネの接近を待つ。
「タケルっ!!早く逃げろっ!くそっ……。あいつ、何してるんだ……」
ハヤテはタケルを助ける為、走ろうとしたが足がふらつき転倒してしまう。
リンネが雄叫びを上げながら迫る。しかし、タケルは刀を構えたまま、その場から離れようとしない。
「いい加減くたばれっ!このくそ化け物が!」
タケルは刀を振り下ろした。普段、大きく重たい剣を使っているタケルにとって、ハヤテの刀は羽の様に軽く感じた。
凄まじい速度で振り下ろされた刀は、空気との摩擦だけで刀身から青い炎が発生。
そして、リンネの体を真っ二つにして焼き尽くした。巨大な炎ではなかったが、とどめを刺すには十分なものだった。
タケルは力を使い果たし気を失う。
「しっ、信じられない……。刀一本で、振りだけで刀身に炎を発生させた……」
「あいつのバカ力。しかもあれだけの重症を負いながら。あいつこそ化け物だ……」
イツキとミユが駆けつけた。
「皆っ!大丈夫っ!三人ともひどい怪我だっ!急いで手当てしないと!!」
イツキは三人を病院に運ぶが、ほとんどの薬は焼けて使い物にならない。
わずかに残っていた包帯で、出来る限りの処置を施し、破壊された病院の中で身を潜める。
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