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第67話 雲隠れ
ジャバラと最強の上級怨魔リンネが人間に敗れた。
ビャクヤは、その衝撃の事実を報告する為、ムドウの部屋に来ていた。
「まさか、ジャバラだけではなく、リンネまで敗れるとは……。何かの間違いでは……」
「残念ですが誠にございます。いかがいたしましょう。奴らはまだオーツの街にいるかと思われますが」
「いえ、マカツに帰還命令を出して下さい。やむを得ません。それしか方法は無いでしょう」
「これ以上、時間をかけてしまえばカイザーが帰って来ます。次の一手で、確実に目的を果たさなければなりません」
「承知致しました。では、直ぐにマカツに帰還命令を出してまいります」
「ありがとう。ビャクヤ。しばらくの間、一人にしていただけませんか。リンネとジャバラが殺された事がショックで……。まだ事実を受け入れられません……」
「かしこまりました」
ビャクヤが部屋を出た途端、ムドウの表情は一気に殺意に満ちたものへと変わる。 目の色が朱色に変化し、その殺気で部屋にあった装飾やグラスが粉々に砕け散る。
「何故だっ!何故、ルカさんは私の所に来てくれないっ!何故なんだっ!ナゼ……」
「私はルカさんが欲しいだけだっ!早くお会いしたいだけなのに!」
「邪魔をする人間どもは全て排除するっ!やはり人間は許せないっ!私の恋路を邪魔する者は、全てこの世から消し去ってやるっ!」
それから、一夜が明けた。
辛くもリンネを倒したルカ達だったが、全員、重症を負っている。
ハヤテは全身に刺し傷があり、立ち上がるのも困難な状態。ルカも全身に刺し傷、斬り傷、骨折を負っている。その傷はかなり深く治りが悪い。タケルにいたっては、全身骨折で動くことすら出来ない。
「みんな生きてるのが不思議なくらいだ。三人がかりでもここまでやられるなんて。相当な強さの怨魔だったんだね……」
「でもみんな生きてて良かったぁ。ミユ、もう会えないかと思ってた。タケルはお化けみたいで、ちょっと怖いけど……」
「心配かけたね。タケルの事より、ミユの体調が戻って良かったよ」
「おいっ!人が動けねぇと思って好き勝手言いやがって!!しかし、腹立つわ!ちくしょうっ!結局、俺は一人で怨魔を倒せなかった!!マジで情けねぇわ!」
「あれはしょうがないよ。一人で勝てる相手じゃない……。あれが超級怨魔の力なの。まだあんなのが六人もいるのか……」
「いや、あいつは超級怨魔じゃない。確か上級怨魔最強って言ってやがった……」
「じょっ、上級っ!!!」
「あの強さでまだ上級なのかっ!じゃあ、超級怨魔って、どんな強さなんだよっ!!」
ルカはタケルの胸ぐらを掴んだ。何故かタケルに苛立ちをぶつける。
「ぎゃぁぁぁぁっ!!!」
全身に激痛が走ったタケルは、大声で悲鳴をあげた。あまりの痛みで目に涙を浮かべている。
「ダメだよルカ!!タケル君は重症なんだからさ。絶対安静にしておかないと。こんな時くらい優しくしてあげなよ……」
「なんでこいつに優しくしなきゃいけないの!!全身骨折くらいでさ!ほんとっ、情けない奴!!」
「この人、鬼だ……。こっ、怖すぎ……」
「皆、聞いてくれ。もし、今あのクラスの怨魔が襲って来たら終わりだ……。誰も戦えない。俺は怪我が治るまで、しばらくどこかに隠れていた方が、賢明だと思う……」
「確かにね……。今の状態じゃ、ベコウに向かうのは無理だ。アタシの魔神銃もまだ使えそうにないし……。怪我も全然治らない……」
「ところでさ、次から次へと怨魔を送ってくるけど、ムドウはどうやってアタシ達の居場所を把握しているんだろ。多分、全員ムドウの指示で動いてるとは思うんだけど……」
「それは、僕も不思議に思っていたんだ……。これは僕の憶測だけど、もしかしたら、怨魔同士は何らかの方法を使って情報を共有しているんじゃないかな……」
「車についていた発信器は、僕が外したし……。僕達の居場所が分かるはずがないから、それしか考えられない。オーツの街が破壊された時はこっちから行ったけど……」
「僕達がキワダを出て山を降りるまでは、怨魔に会わなかった。ルカを襲ったイナガっていう怨魔が山に来てもおかしくなかったはずなのに……」
「そこまで正確ではないにしても、僕達の動きを把握しているに違いない。僕達がベコウへ向かっていると分かってて、その経路を追いかけて怨魔を送り込んできてる様に感じる……」
「仮にそうだとしたら、どうやって連絡を取り合っているんだ……。アタシ達が倒してきた怨魔がムドウと連絡を取っている様子はなかった」
「誰も逃がさずに倒したし……。ムドウに報告する暇があった様には思えない。出来るはず無いよ……」
「そうだな……。連絡の取り様はなかったはず……。周りにも誰もいなかった……」
「だが、もし怨魔同士で何かの連絡を取る手段があるのなら、さっき倒した女怨魔の事も既にムドウに伝わっているかもしれない……」
「何にせよ、身を隠している間は、獣怨魔にすら見つからない様にした方がいい……」
「人がいない山奥なら怨魔も少ないだろうし、見つかりにくいはずだ。この辺にいた怨魔は念仏で、ジャ……、すまない、名前が出てこないが、あいつが集めてた。そいつらはルカが倒したし、隠れるなら今すぐ動いたほうがいい」
「そうだね……。僕、念のためにもう一回車を調べて見るよ。大丈夫そうなら、すぐどこかに移動して怪我の回復を待とう」
イツキは車を確認したが、やはり発信器らしき物は見当たらない。ルカ達はオーツの街を出て、身を隠す場所を探しす事にした。
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