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『はあ……困りました……』
女の深い吐息は、少し涼しくなりかけた秋風に溶けて消えた。
気がつくと目の前にいた、ヒトの姿をした恐ろしい化物から慌てて逃げ出して、方向も場所もわからぬことに、ふと気がついて、いまここに。
周囲には見たことが無いほど高い──それこそ、自分が派遣された神殿が、とても小さく思えるほど巨大な建築物に囲まれ、その下を、せわしなく人が歩いている。
声をかけるも、自分の存在に、気がつく者はいない。
『ここは、いったい、どこなのでしょう?』
ぼんやりと立ち尽くしたまま、途方に暮れた。
私は、ただ……。
『私はただ一目、弟の姿を見たいだけですのに……』
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