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ガチャガチャと人で混み入る休日の城下町。たくさんの商店が立ち並び、美味しそうな匂いが辺り一面立ち込めている。
王子の婚姻が決まりどこか浮かれたようすの街。祝いのタペストリーが吊るされた道に人々が談笑しながら行き交う。
ふいに、どこかから花火が打ち上がった。
大きな音にびっくりしたグウェンは目を丸くしオリバーにしがみついた。
「あ、あ、あれは花火ですか!」
「そうだよ。もしかして初めて?」
オリバーは深くかぶったフードを少し上げ、同じく目深なローブのグウェンの顔を覗き込んだ。
「は、はいっ!僕、本で読んだことはあったけれど本物は……」
オリバーとの距離が近いことにも気付かず空を凝視するグウェン。
またパァン!と鮮やかな花が空に浮かぶ。
目を釘付けにし動かないグウェンにオリバーはクスクスと笑った。
「綺麗だよね。花火、好きかい?」
あんまり熱心に上を向くのでフードがずり落ちそうだ。直してやり頭を優しく撫でる。
「初めて見たけれど……綺麗ですね」
グウェンは花火から目を離さず答えた。
「僕、こんなに綺麗なものがこの世にあったなんてことに感動してます……」
(何百と生きてきて、僕はどうしてこの美しさを知らずにいたのだろう)
瞳にきらきらと光が映り込む。
今日はもうこれだけで生きてきて最高の日だと思った。思わずオリバーの存在を忘れて美麗観測に夢中になる。
オリバーはその様子を愛おしそうに見つめた。いくらでも気が済むまで見せてあげたい、と。
しかし段々周りに人混みが集まってきて、二人はあっという間に流されてしまった。
「ノーグ、こっちおいで」
「ナル様!待って下さい」
ノーグというのはグウェンの仮名、ナルはオリバーの仮名だ。人の多い街で万が一正体がバレれば大騒ぎになるだろうと、付け焼き刃で考えた。
ナルというのは英語圏でオリバーの愛称として使われている。しかし城で孤立しているオリバーをそう呼ぶ者は一人もいなかった。
兄であるデン王子が死んでから。
「ナル様!」
グウェンはオリバーに手を伸ばそうとしたが緑色の自分の皮膚が皆に見られることを恐れ慌てて引っ込めた。
(これが見られたら大変だ…)
人のなだれが起き距離はどんどん引き裂かれていく。
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