秘密のデート

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「ノーグ!ノーグ!?」 (まずい……、どこだ、どこだ) さっきまで近くて聞こえていたグウェンの声が遠ざかっていく。 背の低いグウェンはオリバーの視界から完全にシャットアウトしていた。 アクアマリンの瞳が右往左往に揺らめき 必死に小鬼を探すが、その姿はどこにも見当たらない。 「…………、落ち着け……、まだそんなに遠くまで離れたわけじゃない」 オリバーは焦る息を鎮めて、群衆の中を掻き分けていった。 その頃。 ドン、とグウェンは何かにぶつかった。 「いたた…」 「おい、どこ見て歩いてんだよ!」 振り返るとそこには屈強な男達がいた。 目を見開いたグウェンはとっさに逃げようとしたが筋骨隆々とした腕に掴まれた。 「あ、すすすすみませんっ!」 「ふん。みすぼらしいローブだな。乞食か?」 「いえ、あの……僕はただの通行人で…」 「聞いたか!やけにしゃがれた声だ!」 馬鹿にするような笑いが響く。ヒック、ヒックと大笑いする様子を見るとどうやら酔っぱらっているらしい。 「あの僕は用事がありますので……」 「待て。逃がさねえぞ。俺は今すこぶる機嫌が悪いんだ」 ガシッと肩を掴まれ見上げる程の巨体が立ちふさがった。 ニヤリと笑った口元に義歯が光る。 「あ………う……」 まずい。よりによって都合の悪い相手にぶつかってしまったようだ。 後ろに控える男達もわらわらと詰め寄ってきて、グウェンは強制的に路地裏に押されていった。 (どどどど、どうしよう……!) トン、と背中が壁にぶつかる。 完全に逃げ場がなくなったようだ。 「わっ……」 ひょいと身体を持ち上げられグウェンは宙ぶらりんになった。 「や、やめてください!」 「ふん。金目の物はないようだな」 ブンブンと左右に振り回され身体検査が始まる。 「うっ……」 吐き気が襲いかかり思わず口を押さえる。 恐らくこの時、気分が悪化したせいで完全に脳が鈍っていたのだ。 グウェンは、何の迷いもなく自らの手を男達の前に晒した。 ローブがずり落ちて異形の手が現れる。 「あ?」 ドスの効いた声が素早くグウェンの手を掴みあげた。 (………っぁ) ヒュ、と喉の奥がひくついた時にはもう遅かった。 「あれあれ?あれれれれれー?」 茶化すように声を上げた男は笑みを浮かべて叫んだ。 「この腕、どう見ても人間のものじゃないなあ!」 「え?」 「どれ、見せろ」 「うわッ!何だその色!」 代わる代わるグウェンの腕を見る男達は興奮に満ちた声で指差した。 「どっからどう見ても小鬼じゃねえか!」 その瞬間数多の手が襲いかかりグウェンのローブは一気に剥ぎ取られ地に捨てられた。 理解する間もなく、グウェンは薄い衣の身一つに変わり果てた。 緑色の姿が路地に浮かび上がる。 「なんてこった!まさか小鬼に遭遇するなんてよ」 「本当に本で見たまんまそっくりだ」 へたり込んだグウェンは震える手でローブを掴もうとする。しかしその手は呆気なく掴み上げられた。男がしゃがみこんでグウェンと目を合わせる。 その瞳は獰猛な気配を漂わせていた。 「俺は昔、小鬼に女を盗まれたことがあるんだ…………分かるか、ん?」 「……………………………、」 「まさかお前じゃあないだろうな?」 「……………………」 恐怖で声が出せなくなったグウェンはふるふると首を横に振った。 「ふん………そうか……」 男は顔を離し静かに微笑んだ。
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