活き作りと粋作りと超弩級

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「車海老の踊り寿司を好んで食う不細工女程、おぞましいものはない。とても正視出来るものではない」  徒でさえ、可哀相になったり気味悪くなったりして活き作りの刺身を食えないのに残酷とも思わず不味い顔してガツガツ食うのを目の当たりにしてはそう思うのも無理はないし、酒が不味くなる。  実際、この前、寿司屋に行った時は化粧も髪も衣装もけばけばしく全然イケてないお水のおねえちゃんと飲んでまんまそうなったので嫌気が差して生ものを受け付けなくなったのだ。なので、ぎょく(ネタが玉子焼きの寿司)しか食えなかったけど、今日はイケてるお水のおねえちゃんと飲んでるから生ものの寿司も酒も進む進む。で、鯛の活き作りを食う彼女を正視しながら俺は言った。 「何だか堪らなくなるね」 「何で?」 「君も粋作りだからさ」  俺はそう言いながら卑猥なことを想像しているのに違いなかった。 「でも、あんた程、おいしくないわ」 「それは商売柄そう言うんじゃなくて?」 「そう」 「そっか、確かにそうだろうね。見た目は、生きが良いよって大将が金太郎飴のように実しやかに言うから元気そうに見えても中身は最悪でさ、何せ、漁獲された魚は船の生け簀に入れられ、長い間ゆられながら漁港市場に着くだろ。それからも水槽に移され、更にはトラックの水槽に移され、またまた長時間ゆられながら市場に着くと、またまた別の水槽に移され、競りにかけられた後、またまたトラックの水槽に移され、長い間ゆられながら要約店の生け簀に運ばれる訳だから、その間、ストレスは溜まるわ、あちこち体をぶつけて内出血するわ、疲労物質の乳酸で体が満たされるわ、餌が食べられず痩せ細って蓄えて来た養分も旨味成分も低下するわ、酸素が不十分で老廃物が体に溜まるわで、その実、俺らはひでえ食材を食わされてるのであってだな、而もだ、当然ながら運送コストがかかるから俺らは高い代金を払わされる訳で、それを然も美味の高価な高級料理として流通業者や店の者は巧みに宣伝し、ステレオタイプな客たちは、匠な盛り付けにも誤魔化され、値が高いのも味にも納得して満足してしまうんだ。ま、しかし、例外があって中には美味いもんもあるけどね」 「でも、あんたのには敵わないわよ」 「そりゃあね、俺はストレスフリーだし、この通り至って健康的に太ってて勿論、酸素不足でもなくて若々しいし…」 「でも、あたし、あんたのを味わってると、酸欠になりそうよ」 「そりゃあそうだろうな」 「ここの比類なき巨大ネタみたいに超弩級だもの」 「言えてる、ハッハッハ!」 「ハッハッハ!」  夜半、月影怪しき頃、彼女と共に一杯機嫌のまま意気揚々と店を後にした俺が向かった先はラブホテル。言わずもがな超弩級の一物に物を言わせ捲ったのだった。
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