二摘目

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 休養が始まって二週間が過ぎ、ゴールデンウィークを迎えた頃に俺は実家に帰った。  この時期は母の日用のカーネーションの出荷で毎年忙しかった。  会社を休んでいることを、両親には伝えていない。  ただいつものように手伝いに帰ってきた、ということにした。 「あら冬尽、なんか太った?」  顔を見るなり、母はちょっとばかり驚いて言った。 「筋肉なんですけどっ。ジム通いだしたんだよ」 「そう、いいじゃない。高校生に戻ったみたいね、」  この二週間、ほぼ毎日ジムに通っては種々のトレーニングに励んできたおかげで、失われた筋肉が復活しつつあったのだが、それが見ようによってはふっくら肉がついたように見えるようだった。  泉は「シックスパック?」と言っておもむろに腹を触ってきた後、「ぷにぷに」などとおおいに笑った。さすがにシックスパックは遠い。  が、幾分健康になったのは確かである。  ジム通いが始まってすぐプロテインを飲むようになり、少しずつ食事内容にも意識が向き始めた。幸い時間はたっぷりあったので、暇つぶしも兼ねて自炊するようになったし、睡眠も八時間取れる日が多かった。  かつて四時間睡眠でコンビニ飯とラーメンとエナジードリンクをローテーションしていた日々が嘘のようだった。  結局、ジムの会員も半年間延長した。 「冬尽くん、」  雨水も作業場から出てきた。カーネーションの葉がいくつもエプロンについている。彼は俺を見ると少し驚いたように立ち止まり、すぐに笑顔に戻った。 「元気そうでよかった。」  母が手を叩く。 「さ、さ、止まってる暇はないわよー。とりあえず、冬尽は今から雨水くんの収穫作業を手伝ってもらえる?出荷は、お母さんたちがやるから」  母と泉は作業台に消えた。
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