★四摘目

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★四摘目

 雨水との暮らしが始まって五日が過ぎた朝、携帯に見慣れた番号からの着信があった。雅也だった。  珍しく飲みに誘われたので、その日の夜に会社のそばで飲むことになった。雨水には遅くなると伝え、家を出た。 「久しぶりだな、」  雅也はスーツの上着を脱いで店の中で待っていた。相変わらず、シャツのよく似合う男である。仕事終わりのくせに、服も表情もしゃきっとしている。定時で会社を出たのなんていつぶりかな、と言って笑った。 「何だ冬尽、お前、肉ついたか?」 「母さんと同じこと言うなよ。筋肉だよ、」  そんなに違うだろうか?  ビールジョッキで乾杯すると、雅也は最初の一口でかなりの量を飲んだ。ごん、と机にジョッキを下ろす。 「お前が抜けてから、大変だったんだぜ」  責められるだろうか?あるいは、大変だったけど優秀な俺がなんとかしたぞ、というマウントだろうか?  俺は心のなかで身構えながら、普段通りの人懐こい物言いを心がけた。 「ほんとごめん。迷惑かけたよな。疲れてるだろ」 「別に、」  雅也は自信たっぷりの笑顔で、その言葉を鼻で笑った。  実際、特に疲れているようには見えなかった。彼はどんなに多忙でも、それを表に出すことはない。いつでも顔には覇気があり、スーツもシャツもよれたところが一つもなく、常に完璧なビジネスマンだった。  今日だって、まるで長期休暇を取っているのが雅也の方であるかのようにいきいきとしている。  適職なんだろうな。  泉と雅也は少しだけ、似ているのかもしれないと思った。  置かれるべき場所にいる。輝いている。  羨ましい。  雅也の仕事の話は長く続いた。雨水以外の人間と長話をするのは久しぶりに感じられた。 「それで、冬尽はどうなんだ。」  ビールを二杯目あけ、三杯目に頼んだウイスキーのロックが来た頃合いで、雅也はようやく俺に話題を移した。やや出来上がっていて、頬はほんのりと赤く、目が少しだけ熱っぽく潤んでみえた。 「どうってこともなく。ぼちぼちやってるよ。ジムとかいって――」 「違う。そうじゃない。いや、聞き方が悪かったな。――なあ、冬尽」  雅也の酔った目が、不意に俺を真正面から捉えた。 「お前が潰れたのは俺のせいか、」 「え、」  俺はグラスを持つ手を止めた。 「俺のせいで、お前は会社を休んでんじゃないのか、」
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