二摘目

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「変わった子だよね、」  家族で入った小さな焼肉店でホルモンを焼きながら、母がしみじみと言った。 「雨水くん。人当たりいいし、かっこいいんだけど、何かとっつきにくいっていうか、浮世離れしてるっていうか。ここにだって、なんの前触れもなく急に来たし」 「そうなの?どういう感じだったの?」  俺は聞きながら、焼けたホルモンを裏返した。 「どういうって、」  小さなガラスコップからビールを一口含むと、母は思い出すように目を伏せて少し黙った。今日の運転は泉なので、父も母もそれぞれ一本ずつ瓶ビールを注文していた。 「ほら、海辺で民宿やってる佳代子ちゃんいるでしょ。あそこづてに、紹介で来たのよ。佳代子ちゃん、『なんだか事情がありそうな人が泊まってるんだけど、仕事を探してるみたいだから、雇ってくれないか』って、相談しに来てね。『どんなに小さな仕事でもいい、なんでもやる、って言ってる』って。そりゃ怪しかったけど、佳代子ちゃんの頼みだし、それにこっちもそろそろ誰かほしいと思ってたから、ねぇ、お父さん」 「ん?おお。」  父も多少酒がまわり、上機嫌だ。 「会ってみたら真面目でいい子そうだったしな。身体が弱いのは気になったが――最初もちょくちょく休んでたし――でもまじめで、花のこともよく知ってる。聞いたら、大学で農業勉強してたらしいじゃないか」 「ふーん?」  植物も大学に行けるのか。それとも、彼の嘘か。 「それにここ最近、ようやく雨水くんの身体の調子がよくなってきたみたいでな。見ていてこっちが気合入るくらいだ。ありがたいこった」 「お父さんも、ここのところずっと調子がいいわよねぇ。肩が重いってしばらく言ってたのに、最近言わなくなって」 「先月くらいから、妙にスッキリしてなぁ」 「へ、へぇ〜」  その言葉に、ちょっとばかりヒヤリとした。父や母は、雨水がどうやって食事をとっているのか知っているのだろうか?  ふたりの様子を見る限りは何も知らなさそうだか――なんにせよ、雨水が元気なのは俺のおかげですからね、なんてことは口が裂けても言えない。  父の肩が軽くなったのだって、おそらく雨水のせいだ。俺がここに来るまでは、父から得ていたのだろう。父の口ぶりからすると、雨水は父に気づかれないように根を張って、ほんの少しだけ取っていたのかもしれない。  高齢なのを考慮したのだろうか。父は肩こり程度で済まされたようだ。  そういう優しさはあるらしい。  植物に優しさ、というのも変な話だが。 「まああの子も息子二号みたいなものよね。変わってるけど、かわいいわ」  俺はこの会話をどこにやるべきかわからなくなって、なんとなく向こうの席を見た。こんな春に真っ黒なコートを着た男がハラミを焼いていた。葬式でもあったのだろうか。  しばらく沈黙の続く木場家の静寂を、父が破る。 「なぁ泉、婿にどうだ」 「「はぁ?」」  俺と泉の返事が見事にハモった。 「いい子だぞ。こっち戻ってきて、雨水くんと二人でここ継がんか?」 「お父さんっ」  横から母が父の膝を叩いた。 「ちょっとやだ、へんな冗談ねっ、この酔っぱらい!」 「そうかぁ、」  しゅん、と父が小さくなった。冗談ではなかったらしい。四人は一気に静かになり、囲んだ焼肉網からもくもくと煙が上った。 「そうか……」  もう一度父は寂しそうにそうつぶやき、 「やだ網燃えてない?もー、ホルモンって脂が多いんだから。網交換してもらおうよ」  泉が火消しに店員を呼んだ。
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