二摘目

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 体調は日を追うごとに悪化していった。  俺は日々疲れやすくなり、四月には仕事への影響が深刻になりはじめた。  会議で他の出席者の話が全く頭に入ってこなくなり、ついさっき話した言葉を忘れ、目眩でしゃがみこむ、そんなことが日増しにひどくなっていく。  明らかに雨水の影響だった。  が、それを職場に説明するすべはなかった。「つい夜更かししちゃって」などと思いつきの言葉で取り繕ったものの、それを信じてもらえる雰囲気ではなかった。  結局、職場のトイレで倒れていたところを同僚に発見され、救急車で運ばれた挙げ句、その場で『過労による適応障害』という診断をもらった。  違う。  これは過労なんかではない。  だが言い訳は自分にしかできない。〈人型の寄生植物に体力吸われてるんです〉、なんて医者に言ったところでもう一つ病名を書き足されるのがオチだ。  結局俺は一ヶ月の休養を余儀なくされた。  これこれこういうわけで、と電話で上司に連絡し、茶封筒を買って必要な書類を詰め、会社に送付する――何もかもが惨めな気分だった。  今まで身を粉にして働いてきたのに、こうもあっさりと、それも、仕事のせいでもなんでもなく、ただ降って湧いたような雨水という存在のせいで、あっけなく仕事を奪われるなんて。 ――雨水を怨めばいいのか?  雨水の、あの祈るような面差しを浮かべる。  なぜだか責める気にはなれなかった。  書類を投函した頃にはすでに夜中になっていた。俺はコンビニで適当にゼリー飲料を買って部屋に戻り、小さな冷蔵庫から冷えたビールを一缶取り出した。取り出しながら、ビール以外の唯一の冷蔵庫の住人である醤油の賞味期限が去年だったことに気がついた。  ソファに座り、ビールをあける。間接照明ばかりの部屋は薄暗く、俺は今日に限って、落ち着きより不安を感じた。  酔いはなかなか訪れなかった。  俺はなんとなくベランダに出て、外の風に当たった。  高層階の空気はどこか埃っぽく、春だというのになんの匂いもなかった。だが、ひんやりとして心地良い。  いくらか離れた場所にあるタワーマンションのベランダに、同じように一人で涼んでいる人影を見かけた。遠すぎて男か女かすら分からなかったが、人影もまた、彼方を見て何かを考えているようだった。  俺は出どころの分からない孤独におそわれ、なんとなく芳昭に電話をかけた。
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