大切なたまご

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大切なたまご

私は恋愛賞味期限切れの人。 未婚の友達が羨ましかったのに今では娘達に支えられ、やがて成人して自由になれた私に一番大切な人が出来た。 それは自分の子供。 だが、母親という肩書きから離れていくに連れて時間からの自由を手に入れた私は、美容院に数時間も時間を掛けられなかった頃を懐かしく思うほど、今となっては自分のやりたいことを全力でやれるようになっている。 「一体どうしたんだろう、私……」 それは、人生で2度目の恋をしたからだった。 でも、それは結ばれてはいけない罪のような恋。 両思いなのに片思いのような寂しさがつきまとう。 「お弁当、作ったよ」 以前だったら絶対にお弁当なんて嫌々作っていたのに、今では好きな人を思うだけで気分が上がってパパッと作れる。 体重計に乗っても体重は変わっていないのに、体がフワフワして身軽になっている感覚。 「恋の力って凄い!」 そう実感したが、母親が恋なんてしてはいけないと何度も悩んだ。 今日もお弁当に入れる卵焼きのために、スーパーで卵を1パック買う。 「コンッ」と殻を割り、どんどん卵を割っていく。 その卵はまるで今までの自分の心のようだった。 すぐに割れてしまい、簡単には拭き取ることの出来ない涙のような卵。 そこに1つのたまごと出会う。 「コンッ」と殻を叩いても割れない。 とても固い殻のたまごの中身が気になって仕方がないが割れないから見ることは出来ない。 「割れないたまごを持っていても仕方がないな」 しかし、そのたまごは『恋のたまご』と言われるものだった。 2度目の恋は簡単に割ることは出来ない。 だから卵焼きも作れない。 私は大切に持ち続けることしか出来なかった。 ある日、卵がスーパーから消えてしまうという出来事が起きた。 高級デパートの地下でたまに入荷されるような高級品になったのだ。 「なんだか天然のダイヤモンドみたい」 やがてそのたまごは自然と温かくなり、殻にヒビが入って割れそうになってしまった。 「やめて、割れないで……」 ――パキッ、パキパキッ―― しかし、このたまごが割れることはなかった。 殻のヒビも自然と修復されて、また元通りに戻るのだった。 「え?どうして?」 私は、昔話の鶴の恩返しのように卵の中身が気になり始めた。 「食べてしまおうかな」 「落としてみようかな」 いろんな事を考えた。  しかし、そのたまごは確かに温かくて生きているようだった。 私はしばらくして夢を見た。 「黄身はね、君なのよ」 誰かが話しかけてきたが、意味がわからない。 「君次第でたまごの中身が赤になるか青になるかがきまるのよ」 まるで信号機の色と同じようだった。 「黄色は2つの間にある。危ないけれど重要な役割を果たしていることを忘れないで……」 そして私は夢から覚めた。 信号が青になって渡っても、赤信号で立ち止まる。 その時に信号は3色で成り立ち、その3色のおかげで人々は混乱なく通行出来る。 そんな月のような黄身が羨ましかった。 「愛されるってなかなか出来ないものよ?」 未婚の友達が言った。 「間に挟まれて苦しいかも知れないけれど、きっとこのたまごのように……」 そして、私の『恋のたまご』は『愛のたまご』に変わる。 たまごには鍵が掛けられ、ますます中身を見たり取り出したりは出来ない。 進化したたまごを持った私は、休む暇もなく温め続けた。 すると、ある日たまごは消えてしまった。 「え?どこへ消えたの?」 すると、目の前には2人の王子様が現れた。 「俺達が君を守るから」 心で繋がった私は、まるで月になれた気がした。 この信号機という狭い中で誰かのために点灯、点滅を繰り返す…… 「離れないでね」 しかし、真実の愛は1つ。 「どちらかなんて選べない……」 私達は、選べないのではなく選ばなかったのだ。 たまごに傷が付かないように大切にしてきたからこそ、今私は両手を広げてそれぞれ手を繋ぐ。 「あいしてる。ずっとそばにいるよ」 そして、私は新しいたまごの中に閉じこもる。 あなたが真実の愛を知るまで……。 暗闇に光る月を見上げる二人がいる。 別々の指輪を薬指にはめたまま手を繋ぎ、『秘密のたまご』が震えだしていた。 「あなたもついに真実の愛を知ったのね……」
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