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「花見ってお昼スタートですよね。海外事業部の営業くんがなぜここに?」
ブルーシートの上でマイ座布団を取りだしながら、真野が尋ねてくる。
「中本くん、村上と仲がいいみたいで、よく分かんないけど色々協力してくれて。あっこれ、彼からの差し入れ」
「私も頂いちゃっていいんですか?」
「うん。彼が買ってきてくれたんだけど、一人じゃ全部食べきれないから」
「このパン屋さん、私も知ってます。もしかして、ここからあのお店まで行ったんですか」
「そうみたい。ちょっと歩いたところにあるって言ってたけど」
袋の中を覗き込んだ真野は、クロックムッシュを手に取ると「いただきまーす」とかぶりついた。
「へぇ……。あのお店、ここから結構距離があると思うけどな」
「えっ、そうなんだ」
パンをほおばりながら「はい」と答えると、真野は美咲をまじまじと観察している。
「……なんだか今年の広岡さん、完璧ですね」
「へっ?」
「めちゃくちゃ防寒されてるし、よさげな椅子に座って、ホットコーヒーまで持っていて。とっても居心地良さそうです」
「あ――、さっきの中本くんに色々と気を遣われてしまって。真野さんも座ってみない?」
「いえ、遠慮しておきます」
食べかけのパンに目を落としたまま真野はしばらく何やら考え込んでいたが、やがて「私が思うに、そこは多分、広岡さん専用の席なんじゃないかなぁ」と言うと、美咲に向かって二ッと笑いかけた。
「桜、今日のお昼に一気に咲くらしいですよ。ちょうどいいお花見日和になりそうですね」
そう言われて、頭上に広がる桜の枝を見上げる。日が高くなるにつれ青空は明るさを増し、薄桃色の花をより一層美しく際立たせている。
(――気のせいかな。さっきよりも綺麗に見えるような)
手にしたコーヒーが、まだほんのりと暖かい。さっきまで冷たかった風も日差しに温められ、優しく頬を撫でていく。
来た時よりも晴れやかな気分で、美咲は今まさに咲き揃う桜の木々を眺めた。
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