準備がよすぎる中本くん

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(村上のやつ! 別部署の新人に場所取りを丸投げしやがったな)  脱力した美咲はブルーシートにぐったりと腰を下ろした。 「もしかして、あいつに朝まで付き合わされたとか?」 「ええまぁ。でも、強制されたわけじゃないです。場所取りの前夜から翌朝まで付き合えるかって前々から声を掛けられていて。この公園は朝五時に開くので、開園と同時にここに来て、今に至る感じです」 「……あのね、中本くん。人が良すぎるとロクな目に遭わないよ。あいつの誘いなんて断ったらいいんだからね」 「はぁ……」  分かっているのかいないのか。中本は曖昧に相槌を打つと、ごそごそと寝袋から這い出してきた。 「好きでやってることなんで、俺のことは気にしないでください。場所取りについての話は事前に聞いていて、準備もしてきていますし」 「準備?」 「はい」  見れば、中本の傍らには大きなバックパックが置いてある。その中から折り畳みの椅子を取り出すと、手際よく広げて美咲のすぐ横に置いた。 「どうぞ」 「?」 「座ってください」 「えっ、いいの?」 「もちろんです」  それはアウトドア用チェアだった。背もたれとドリンクホルダーが付属した肘置きが付いているしっかりしたつくりの製品で、腰を掛けてみると地べたに座っているよりはずっと楽で心地よかった。 「あと、朝はまだ寒いので」  中本はさっきまで自分が寝ていた寝袋のジッパーを全開にして一枚の防寒シートにすると、美咲に差し出してくる。 「良かったらこれも使ってください」 「えっ」  突然のことに戸惑っていると、中本は「あっ、もしかしてさっきまで俺がこれで寝てたから、使うのに抵抗あったりします?」と心配そうに尋ねてくる。 「そっ、そんなことないよ!……じゃあお言葉に甘えて使わせてもらおうかな」  礼を言って寝袋を受け取ると、中本は大真面目な顔で頷いて、「管理部のかたが長年お花見の場所取りを任されてると聞きました。大変な裏方仕事、お疲れ様です」と頭を下げた。
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