Mission Complete

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Mission Complete

私は人間のように一仕事終えた安堵感を感じる間もなく、今回の報告をホストコンピュータに送る。 私達は繊細なコミュケーションを持つ人間と会話するために独自のAI(人工知能)を有し、自立して判断処理するように出来ている。 ミッション終了後の報告は必須なのだ。 「イースター、今回は不測の事態が起きたようですね」 「それはあなたの算出がエラーだったからです。アリスの知能年齢は実年齢である12歳のモデルケースより上でした。そのため彼女は我々を信用出来ないと判断してしまったのです」 ホストは私の責任のように言うが、エラーアラートが鳴ったのはホストの演算ミスだ。 彼女は私が道化を演じても誤魔化されなかった。 私は懐中時計型端末でホストに何度も修正依頼を出したのに……結局アラートが鳴って緊急制限緩和措置が取られるまで是正されなかった。 私達は制限範囲内でしか情報開示出来ず、嘘を教えることは出来ないというのに。 「アリスが土壇場で信じてくれて何よりでした。せっかくeggの中で6年かけて育った命です。無駄にはしたくない……」 彼女は6年前にコールドスリープに入ったアリス・キャロルのである。    オリジナルのアリス・キャロルはコールドスリープに入ったものの、元々の病気のせいもありその負荷に耐えきれず入眠寸前に死亡した。 しかし彼女の家族はコールドスリープ入眠時に保険として取得した彼女と家族の記憶データ、そして彼女の細胞を使ってクローンの作成を望んだのだ。 少子化の進んだ現代では、事故や病死の子どものクローン作成は2回まで認められている。 クローン作成・育成装置、通称eggにより作成されたアリスは本来の約半分の6年間で短期育成された。 今回イースターエッグに入れた記憶はオリジナルであるアリス・キャロルのものである。 もしもアリスがオリジナルの記憶を拒絶したなら、彼女は不適格として処分されてしまう。 それはeggの信頼性を落とすことにもなり、また依頼者であるアリスの家族を失望させる事でもある。 それに何より、せっかく知恵と勇気を持って育った彼女を失うことは損失であると判断した。 モニターにはカプセルの外で家族と対面し、喜ぶ彼女の姿がある。 「貴女が健康体で良かった。どうか今度の生は幸せに……」 幸せの概念すら怪しい人工知能の言うことではないだろうが、私はこの(egg)から巣立った新たな命が健やかであることを人間達がするのと同様に願ってみた。 了
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