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「私はこの草原に12個のイースターエッグを隠しました。見付けてみませんか?」
私はぐるりと辺りを見回した。
「この広い中から卵を?」
「ええ、でも貴女にしか出来ません」
うさぎは懐中時計をポケットにしまって、意外と器用そうな手をひょいと差し出した。
どうやら私が見つけた卵をよこせといっているようだ。
渡してやると両手でそれを持って、こちらに見せる。
卵は薄い黄緑に塗ってあり、蔦のような模様と黄色い花、それから①と数字が書いてある。
「これは貴女のための卵。全部集めたらお家に帰れます」
私がきょとんとしていると、うさぎはぱっと両手を離して卵を地面に落とした。
「あっ!!」
私は慌てて手を伸ばしたが、より地面に近いうさぎが落とした卵には届かない。
カシャンと乾いた音がしてそれが地面にぶつかると、殻が砕けて中からふわふわした光の玉が上って私の頭に触れた。
すると頭の中に何かが見えてくる。
私は瞳を閉じてそれをしっかりと見た。
二人の大人がにこにこと笑いながら赤ちゃんに話しかけている。
「パパ、ママ……」
そうだ、これは私の両親。
ということはこの赤ちゃんは私だ。
ママは一冊の絵本を差し出して、赤ちゃんに見せる。
「これは不思議の国のアリスっていう本なの。この女の子は不思議な世界に行ってしまうけれど、知恵と勇気でお家に帰ってくるの。あなたもそんな強い女の子に育って欲しくてアリスって名付けたのよ」
思い出した、私の名前はアリス。
なぜこんなに大切なことをすっかり忘れてしまっていたのだろう。
パパは笑いながら赤ちゃんの小さな手に自分の指を握らせた。
「まだそんなことわからないよね。赤ちゃんだもんな」
二人は笑って赤ちゃんの頬に触れる。
そこで映像はふぅっと掻き消されるように消えた。
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