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目を開けるとうさぎは鼻をぴすぴすと動かして、満足そうに笑っている。
「何かわかりましたか?」
「私の名前はアリス。パパとママの子どもよ」
「大変けっこう! 貴女はこれで名前を取り戻しました」
どうにもよくわからず、私はじっとうさぎのガラス玉のような黒い目を見詰めた。
するともぐもぐと柔らかそうな口元を動かしてうさぎが言う。
「これから貴女は残りの11個の卵を見付けて割らなければいけません」
「どうして?」
「君にはまだわからないことばかりではありませんか?」
その通り。
名前は思い出したけれど、なぜここにいるのか、どこへ行くのか、家はどこなのか……何一つ思い出せない。
夢だからではないのだろうか。
「でもここは夢の中でしょう? なら別に困らないわ」
「ここは夢であって夢でない場所。アリス、君は自分の記憶を取り戻すために卵を探さなくてはいけません」
私はうーんと唸った。
夢なら別にそんなものを探さなくても良いと思うのだ。
目が覚めたらきっと全部思い出すだろうから。
「こんな広い中から探すのは大変だわ」
断ろうとすると、うさぎは長い耳がペラペラと捲れるほど激しく首を横に振った。
「大丈夫。なぁに、歩いていればこうしてまたぶつかるはずです。だって卵はアリスのためのものなのですから」
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