桜を嫌いな理由

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 私は冷たく固まってしまった身体で、ブローチを握りしめて立ちすくんでいた。それから、祈るようにブローチを胸に当てて両手でそっと押さえた。  その時、目の前にあの北の庭園の外れの池が浮かんで来た。水面は一面にピンク色。私が飛び込んだ時の色だ。そこに駆けて来た人影があった。その影はためらいもなく駆けて来た勢いのまま池に飛び込んで消えた。  リーゼル王子はこちらの世界に来てくれたんだ、私を追って。私が飛び込んだ時、遠くに聞こえた王子の声がかすかに響いてきた。  ありがとう王子。ありがとうブローチ。  私はもう、故国に帰れなくても大丈夫。この世界で自分の足で歩いていってみるつもり。そしていつか、水色の優しい瞳と再会した時、胸を張ってお礼を言える自分になっていられるようにがんばろう。    このブローチはあちらの世界に返さなきゃ。このピンクの桜の中に放ったら、桜は一瞬水色に変わり、ブローチを受け取ってくれるだろう。故国の、また次の、七歳を迎える王女の為に。  私は桜の木を見上げ、ブローチを握った右手を大きく振りかぶった。          終わり    
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