桜を嫌いな理由

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 その瞬間私の中で、何ががぶちんとちぎれ目の前が真っ白になった。そして私はマーナの手からブローチをひったくると、リーゼル王子の横を駆け抜け部屋を飛び出した。その後のことはよく覚えていない。かっとして頭に血が上っていたのだろう。  気がつくと宮の外に出て、北の庭園の外れを走っていた。窮屈な式服と硬いガラスの繊維でできた靴は走りにくく、息が切れた私はもう限界だった。庭園に続く木立の中の池のほとりに近づいた辺りで木の根らしきものに躓き、倒れながら咄嗟に身体を庇おうと地面に両手を突いた。  手を突いたところは池まで続く急勾配の斜面になっていたので、勢い余った私は間抜けなことにそのまま高速で前回りをした。そして一回転を終えて開いた掌から飛び出したブローチは、コロコロ斜面を転がり落ちてドボンと池に落ちた!  一回転だけでは勢いの止まらなかった私はもう一回転し、ブローチの後を追って池に飛び込んだが、飛び込む刹那、眼に異様なものを捉えた。  ブローチが水面を割った瞬間、池の縁に枝を差し伸ばして咲き盛る桜を映して水色だった水面が、パッとピンク色に変わったのだ!  次の一瞬私は池に飛び込み、それからしばらくは何もわからなくなった。  どこか遠くの方で私の名を呼ぶリーゼル王子の声を聞きながら‥  
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