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もちろん故国が恋しかった。姫として過ごしてきた境遇とのあまりの違いに驚いたり、失礼な扱いを受けてムッと憤慨したりと、昼間は無我夢中で過ごしたけれど、夜になってクローゼットのように狭い部屋の小さいベッドに横になると、懐かしい人々や宮内の部屋や庭園のあれこれが目に浮かび、毎晩のように泣きながら眠りについた。
けれども私は、苦労しながらも少しずつこちらの世界での暮らしに慣れていった。どういうわけか言葉が普通に通じることはなによりの救いであったし、私のキンポウゲ色の髪や明るい茶色の眼は、落ち着いた目立たない程度の焦茶色に見えるのだった。馴染んでくれば下男下女のように見えたオトーサンオカーサンとも折り合いをつけてやってゆけるようになった。元々のこのぼんやりした性格が良い方に働いたこともあるだろう。
最初は手のつけられない鶏竜のようだったオトートも、成長するにつれだんだんましになりしっかりしてきて、今では貴人付きの近習の見習いの補欠くらいは勤まりそうである。世話をしてやって懐いてくれれば、故国で可愛がっていたムジカのように情も湧いてくるというものだ。
ガッコーでは、トモダチと休み時間に遊んだり、時にはホーカゴにコーエンで遊んだりもした。宮中で、子どもといえば私だけの暮らしをしていた頃には考えられなかったトモダチとの関わり。中には平気で嘘をついたり、約束をすっぽかすなど想像を絶するような礼を失した行動を取る者もいて驚かされもしたけれど、なんとかやり過ごしてきた。
そして昨年の春には、ショーガッコーを修了してチューガッコーというところに通い始めた。建物やキョーシツの殺風景なことはショーガッコーと変わらない。その上、クラスの半分を占めるダンシという生き物の愚かさ、幼稚さにはしょっちゅう辟易するけれど育ち過ぎた鶏竜だと思いあまり気にしないようにして生活している。
ブカツというものに入ることが必須と言われ、ビジュツブに入りホーカゴは絵を描いている。王子にからかわれていた頃と比べてもあまり上手くはなっていないけれど、他のブインたちとお互いの絵の感想を言いあったりしながら筆を持つのはそれなりに楽しい時間だ。
ただ、春を迎え桜が咲く時期だけは、あのピンク色の花を見るたびに切なくて胸を疼かせてきたのだけれと。
毎年、この世界の桜が満開となってから散り終える頃まで、衝撃的だった七年前の出来事の意味を考えてきた。
そして今年、とうとう私は、あの事件にまつわる謎が解けたような気がしている。
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