桜を嫌いな理由

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 鍵はやはり、私が池に落としてしまった国宝のブローチだろう。今年、あの頃のことをぼんやりと思い返していた時、式の前日、ドウズじいやが式服に着ける装身具をテーブルに並べてその意味を説明してくれた場面を思い出した。  我がパーレル王家の徴である星型にカットした紫金剛石のピン、王女の身分を表す丸い金の勲章、代々王家の女性に伝わる白珠の三連のネックレス、王家と国民に忠誠を誓う印としてウエストに巻き付けて飾る真紅の飾り帯、そしてあの星型の銀のブローチ。  じいやは、確かこんなことを言っていたような‥  このブローチは、七歳の一の儀を迎えた我が国の王女を守り、次の大きな儀式である十四歳のニの儀の祝いへと導くための力を秘めた宝なのだと。  私が、なぜかこちらの世界に通じていた池に飛び込んでしまった瞬間、魔力を発動させたブローチは、咄嗟にこちらの世界に私の受け入れ態勢をつくったのじゃないだろうか。  桜の色が故国の水色からピンク色に変わったのがその象徴だったのでは?そして私のカゾクが用意され、言葉も自動的に翻訳される準備が整えられた。ほかにもこの七年間、ブローチはいろいろな場面で私を守ってきてくれたのだろう。私がこういうことを七年目に考え進められるようになったのもブローチの働きのような気がする。  もう一つ考えられるのは、その七年間が終わりに近づいているということ。私は一人で頷いた。明日、私がこの世界に飛び込んできた場所、あの公園に行かなくちゃならない。    次の朝早く、公園のあの場所の辺りに行って、咲き残っている桜を見上げ、枝の間に鈍い銀色に光るあのブローチを見つけた。やっぱりここにあったんだね。  そっと右手の指先を伸ばして冷たい銀色に触れ手に取った。左手の指を滑らかな表面にすべらせた時、お父様、お母様、お兄様の姿が浮かんできた。お三人とも少しお歳を重ねられて皆お元気そうだった。それからマーナ女官長やドウズじいや、陽気だった小間使いたちや、馬房で草を食むムジカの姿も見えた。みんな懐かしかったけれど、以前のように悲しくはなかった。そして懐かしさは、優雅にお椅子に座っていらっしゃるお母様よりも、大きな鍵束を手にしゃきしゃき廊下を歩くマーナの方により強く感じるのだった。  皆、息災に暮らしているんだ、良かった‥ だけど、リーゼル王子は?この七年間、一番たくさんその水色の瞳のことを思っていた人。  浮かんで来ないって、もしや‥    
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