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01. ニセモノ令嬢と乙女騎士
「ニセモノのあなたより、私の方がグレッグ様を幸せにできるわ」
先日そう言った彼女が、婚約者のグレッグの胸に顔をうずめている。信じられない気持ちで見ていると、グレッグの腕が彼女の背中にまわろうとした。彼女は私の方を見て、ニヤリと笑っている。
その瞬間、私は弾かれたように2人に背を向け走り出した。曇っていた空は暗い雨雲に変わり、私の頬を雨粒が濡らしていく。
(いつから……? だってこの前の夜会も、その次の日もいつもどおりだったのに)
2人がいつからこんな関係になっていたのかわからない。私は原因を探るように、ほんの数日前の日々を思い出し始めていた。
◇
「まあ! 今夜もレイラ様とグレッグ様の美しさは際立っているわ」
「ドレスもマダムロゼのものよ。センスが良いわ」
「グレッグ様は騎士団で鍛えてるだけあって、凛々しくていらっしゃるわね」
「本当にお2人は完璧ですわ」
今夜の夜会も私達が顔を出したとたん、噂話が耳に入ってくる。美しい宮廷音楽に色とりどりのドレス。令嬢なら心ときめかせて過ごすはずなのに、私はさっきから上の空だ。今日は蒸すわね。早く家に帰りたい。そんな私の気持ちなどおかまいなしに、私達2人と話そうとやってくる人の列は絶えない。
「レイラ、次はハワード侯爵夫人だ。さっき教えた本の題名を覚えているか?」
「……?」
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