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俺は肉を持った皿を持って席に着く。早速取り皿を三枚並べて、塩、醤油だれ、ごまだれの三種の神器をセットアップする。
当然醤油だれにはおろしにんにくを雪崩のように落とし込む。これで準備は整った。初手はタンからだ……ゆっくりと焼いていく、寿司も最初は淡白な魚から最後は赤身へと行くのが通と言われるが、焼肉も同じだ。
最初はタンこれ一択だ、それから脂ののった他の部位へ行けばいい……。俺は焼きあがったタンを塩で味わう。うん、旨い……タンは塩に限る。
その味を堪能しつつビールを飲む。最高だ、これに勝る幸せはない。こうしてタンを食べきった俺はカルビを焼き皿に乗せる。こいつはニンニクの効いた醤油だれがベストだ。ごまだれは後半戦の味変にとっておく。
2杯目の大ジョッキを味わいながら俺はカルビを堪能した。こうなると次はハツか、モツ……いやいや待て、ミノも捨てがたいし、大ジョッキのお代わりを求めつつ再度カルビを堪能するのも粋だろう。
俺が肉を取ろうと陳列棚へ向かうと何やら黄色い声がする。トングをもってその声の方を見ると、プリティーなガール達がアイスをカメラに収めていた。
『ねえ秋子、これチョーエモいじゃん、インスタ上げよ~っ。』
「やだ、冬美~こっちのパフェなんかマジパリピ。』
ここは火星か?日本語を話せ日本語を。俺が藪睨みしつつそこを見るとそこはデザートのコーナーの様で、フルーツやアイスやらパフェやらが並んでいた。
『マジでさあ~このスイーツヤバくない?』
『激ヤバ。このジェラードも超アゲ。』
お前ら、もう一度小学校へ行け……行って日本語を学び直せ。それに何がジェラードだ、お前らはイヤミの親戚か?アイスでいいだろ、アイスで。
それに何がスイーツだ馬鹿野郎、食後に出てくる甘いお菓子や果物をおフランスではデザートって言ってんだ、お前らの言うスイーツはアメ公の文化でただ甘いものだ。
そんなにスイーツが食いたけりゃ砂糖や蜂蜜でも嘗めてろ。
いかんな、どうも老害と言われる年齢に近づくと愚痴っぽくなっていかん。
俺の年代は世のアンケートでは最も危険な危ない年代と言われているらしいからな。彼奴等から見れば俺の方がおかしいのかもしれんな。
こちとらいい大人だ。些事で腹を立てるのはよそう。ボギーやクーパーの様に年相応に渋く決めなくっちゃな。そう思った俺はその誓いを撤回せざるを得なかった……。
気が付くと目の前の肉のコーナーにはジャージを着たいかにも体育会系と言ったマッチョな集団がたむろして、皿から零れ落ちそうな程肉を盛り付けていたのだ……。
奥では店員さんが青い顔をして奥の冷凍庫から肉の入ったアルミのトレーをバケツリレーの様に運んでいる。巨大なマッチョの群れは超兄貴たちの集団の様に固く厚く立ちはだかり、俺の伸ばしたトングはエルドラドへ届かなかった……。
マッチョの群れが去った後は、イナゴの群れが全てを食べ尽くしたかのようなペンペン草一本残っていない様な荒地だった。
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