時代遅れの独り言

店の前から漂ってきたかぐわしい臭いはそのドアを開けた瞬間最高潮に達した。

焼肉食べ放題、アルコール呑み放題の幟が嘘でなかったことを俺は感じた。食べ放題、呑み放題……しかも今日はキャンペーン期間とあって、食べ放題２時間１，８００円が９８６円、呑み放題も２時間２，５００円が１，４８６円とお得なのだ。

俺は早速食べ放題、呑み放題を店員に告げると、前金の税込み２，７２０円を支払うと、戦場へと赴いた。

ほう……広い店内は客で活気づいていやがる。そうでなくっちゃな、食べ放題の店は。

俺はドリンクコーナーでビールの大ジョッキを２杯注文する。何故２杯かって？んなもん１杯目がすぐ無くなるからに決まってんじゃねえか。

俺の呑み方は短期決戦型、競走馬で言えばツインターボかカブラヤオーと言ったところか。まあ、初手からガンガン飲んであっという間に潰れる俺の呑み方は『狂気の逃げ馬』といわれたカブラヤオーに近いのかもしれねえがな。

早速席に着き、軽くビールで舌を湿らせると、いよいよ本命の肉を取りに行く。

肉のコーナーはまあ、如何にも食べ放題の店らしく、今、冷凍庫から出してきました～感が満載な肉が並んでいるが、またそれがいい……上手い肉を食いたけりゃ叙々苑でも行け。このチープさが食べ放題の醍醐味だ。

俺は早速タンとカルビを皿に盛る。先ずはこいつらから攻めるか……。トングを持ちながらふと右隣を見ると、一緒に入って来たヤングメン２人が飯のコーナーで早速白飯を茶碗によそい、その上からカレーをこれでもかとかけていた。

はあ？初手からカレーか？ここは焼肉食べ放題の店だぜ？いきなりカレーなんか食ったら肉が入らねえだろうが！そんなにカレーが食いたけりゃココイチへ行け、ココイチへ。

俺は心の中で悪態をつきながら飯のコーナーを眺める……ほう、昔は白飯とカレーと味噌汁、ちょいと洒落た店ならコンソメスープもあったが、今は白飯、ピラフ、炒飯、色々あるな……カレーや味噌汁以外にデミグラスやコーンポタージュ、トムヤムクンまでありやがるぜ。時代は変わったな。

『春男さん、このお店は焼きたてのピッツァが美味しいのよ♪』

『やあ、夏子さん、流石にグルメだね♪』

なんやら訳の分からない会話が左隣から入る。そこは焼きたてピッツアコーナーとなっており、５～６人ほどの列が出来ていた。

焼肉屋にピザコーナーだと？チャレンジャーだなこの店は……。しかし……何がグルメだ、焼肉食い放題の店にピザのグルメがあってたまるか。そんなにピザが食いたけりゃピザーラへ行け、ピザーラへ。

それに何がピッツアだ、イタ公の食いもんなんかピザで十分だ。そういえば、スパゲッティもいつの間にかパスタに取って代わられてたな……。

馬鹿野郎、あれはスパゲッティで十分だ。ハリウッドでもイタ公の西部劇はスパゲッティ・ウエスタンって言うんだ。それに日本だってマカロニ・ウエスタンって言うじゃねえか、どこにパスタが入る余地があるって言うんだこんちきしょう。