序章【いつもの日常はじまりは唐突】

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序章【いつもの日常はじまりは唐突】

それは人気(ひとけ)のない埠頭の、大型倉庫の一区画だった。 時間は既に午前様となっている。 ここら辺一帯は倉庫と24時間フル稼働の工場しか存在しない。 行き交うのはトラックと交代時間の従業員ぐらいであった。 今の時間はもう午前様で、交代時間は過ぎたばかりだ。 何より、ここら辺一帯は倉庫ばかりで人ひとり居ない場所である。 離れた場所で稼働する工場の騒音と、船の汽笛と、仄暗く一帯を照らすナトリウム灯の薄暗いオレンジの光。 幻想的と言えば聞こえはいい。 そこは人の気配は全くない、静かな岸壁に隣接する倉庫の一つ。 その倉庫の中は、数台のクルマによるヘッドライトの光で、その場に居る者の輪郭を浮かび上がらせる。 既に息も絶え絶えに、粗い呼吸が響く人形の麻袋。 それを一人の男が裂き、中を露にした。 「確かに、この男だな」 そう告げると、目の前で腕を組み見下ろしていた男……見た目は学生服で前髪で瞳を隠していた青年は、似つかわしくない黒フチの眼鏡を外すと、胸ポケットにそれを引っかける。 そして、鬱陶しそうな前髪を軽く後ろに流した。 見た目にも若そうな彼は、再度その献上品を確認するとほくそ笑む。 「アキラ、仕事が早かったな」 「まぁこの程度の男なんざ、どこにバックレても見つけ出すなんて造作もない」 ふんっと鼻で笑い、傍に控えていたスーツ姿の青年、『アキラ』と名乗る男は不満そうにそう告げる。 目の前では、全身アザだらけで息も絶え絶えだった男が縛られたその状態でも、これからの事を予測して恐怖に慄いている。 目を見開き、ガタガタと震えていた。 「それにしてもアキラ、お前も悪趣味だな」 「そうか? ちゃんと五体満足で献上してやるんだ、褒めてくれてもいい」 そんな事を言い合い、クスッと笑い男を見下ろす。
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