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阿紀良が思い出したように言葉を止め……「そう言えば」と話題を変える。
「ウチでまた一人殺られた奴がいるらしいぞ」
その内容に、幽玄は顔を上げる。
「やっぱりいろいろと……」
「ちょっと今は大変な時期らしいのは確かかもな。オレらもあまり動き回らない方がいいと思う」
ワークを止めていた手を再開しながら、阿紀良が幽玄に念押しした。
幽玄も別に何かしたいとか、しようと思っているわけではない。
それでも迂闊な行動は親父に迷惑がかかることは理解していた。
白夜はそれなりに大人である。玉響に関しては、部屋から出てこない。
結局足手まといは一番お子様な自分なのは、重々承知していた。
──ただ、あの日だけはちょっと状況が違っていた。
小学校へ登校は、相変わらず厳戒態勢だった。
もう本気で誰も寄り付かない。
下手したら『帰れ』的な畏怖を含んでいる視線が、幽玄には痛かった。
連日テレビでは、抗争で起きた事件を報道している。
だから、幽玄は危険という認識が出来上がっていたのだ。
ヒソヒソ話という次元ではない。
阿紀良はあからさまにイラついている様子だったが、幽玄は感情が荒立つことが無かった。ただ、少し寂しさは抱いていた。
教師も腫物扱いで、幽玄に接する。
それも仕方ないか、と思うしかない。
その日も変わらず一日が終わり、帰ってくるとクルマを降りて「ちょっと離れに寄るから」と告げると、幽玄は一人裏手の方へ歩き出した。
離れにあったゲーム機を取りに行っただけだった。
部屋でゲーム機を確認し手に取る。そして何気に窓辺に立った。その離れからは屋敷の囲いの外が確認できる。
何も考える、目を遣っただけだったのだが──幽玄の表情が動いた。
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