Ⅰ後編【アナレプシス──回想】

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それはちょうど裏手だった。死角になるような状態で、ワゴン車が止まっている。 そんなクルマが記憶にない幽玄は、目を細め外からこちらが見えないように身を隠し状況を眺める。 男達の行動が、人目を憚るかのように辺りを気にしながら何かを隠すかのような所作。 「何やってんだ──」 訝しげに眺め、そしてふと目に入ったモノに幽玄は視線を留めた。 それはワンピースを着た女の子だった。暴れているのを押し込むかのようにしている状況は、どう考えたって合意の上のドライブとは言い難い。 「あれって……もしかして」 幽玄はその女の子を記憶していた。確か自分の屋敷の廊下をウロウロしていた子と一致していた。 何か嫌な予感がする。 この場合は、誰かに伝える事が第一優先だったのだが、何故か咄嗟に幽玄は離れを飛び出してしまった。 ◇ 裏手から飛び出して、男達と目が合って我に返り、自分の行動が軽率だったことを痛感する。 父親にも注意されていたこのなのにどうして単独で飛び出してしまったのか。 男達はどうやら幽玄の素性をよく分かっていないらしい。 酷く慌てた様子で「そいつも連れて行け!」と慌てている。 幽玄は咄嗟に二択を導き出した。 『こいつを見捨てる』か『一緒に連れ去られる』かなのだが、瞬時に覚悟を決め抵抗を弱めると様子を見る。 不思議と前者は違うような気がしたのだ。そして言葉を発することも無く──そのワゴン車に大人しく押し込められた。 荒々しく押し込まれると、先に押し込められたその子は、只々泣いている。 救いなのは、泣くことに意識がよって暴れていないため、怒鳴られることはあっても何とか加虐されることはない。 どう見ても、この誘拐の行動からそこまでの手練れ集団ではないことは、幽玄でも察することができる。 一番怖いのは、泣き叫び暴れることにより相手がパニックを起こしてしまうことだった。 (下手したら殺されかねない) それを理解していたため、幽玄は敢えて一緒に連れ去られることにより最悪の事態を回避しようとした。
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