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拉致られてから、クルマはどこへ行くのか移動している。
一頻り泣いて、少し落ち着いたのか疲れたのか、女の子は周りを見る余裕ができたようで、震えながらもキョロキョロしている。
幽玄と目が合うと、少し安堵した様子を見せていた。
知り合いとも言えないが、知った顔があるとないとでは違うのであろう。
幽玄もそんな彼女の様子に一つ心配事が取り除かれた心地だった。
しかし、周りの方がパニックのようである。
今になって、誘拐した子供が二人となり想定外なのかどうしていいかわからず、責任の擦り合いを繰り広げている。
「おいっ! 結局不動んとこのガキってどれだよ!!」
「んなの知らねーよっ!!」
「どーすんだよっ!! 二匹も連れてきちまったじゃねーか!!」
(お粗末にも程がある)
幽玄は半ば呆れていた。
そしてこれが本当に抗争関係の駒なのかと疑問視したくなる。
第一、誘拐相手を知らないとかどんな茶番だ、とツッコミたいぐらいだった。
今は大人しくしておく方が無難か──そう腹を括ると、幽玄は暇つぶしもかねて、その男達の言い争いをさり気無く観察していた。
着いた先で押し込められたのは、使われてない倉庫の様な場所だった。
クルマごと入ってしまえば移動に危険を伴わない。
手荒に一室へ押し込められると見張りもおらず外から鍵がかけられた。
「おいおい……いいのかよ」
逆に大丈夫なのか? と思いながら、幽玄はやれやれと辺りを見回す。
部屋はシンプルにトイレ付の小汚い部屋だった。普段男どもが屯している感は満載の一室である。
だから逆に救われた。
(監視カメラ等々は──無いのか?)
ぐるっと見回して、ぱっと見そういった類が無い事を確認する。
そして、それが終わると隠していそうな箇所をゴソゴソ漁り出した。
女の子は不思議そうに「何してるの?」と尋ねる。
「別に。とにかく黙ってそこいらに座っておけ」
それだけ命じるかのように、告げる。女の子は反論することなくコクンッと頷くとその場にちょこんと座った。
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