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「わかった。要は間違えられたというやつか」
そう結論付け、「不運な奴」と呟く。
幽玄は生まれた時からこの環境に世界だった。
だから今更真っ当な堅気で生きたいとか更々思っていない。
元々堅気の世界すら知らない。
だから、こうやって拉致られて万が一死んでも諦めはついていた。
(だけどこいつは違う)
フユキは普通の家庭に生まれた普通の少女だ。
それがこんな巻き込まれ事故で命を落とすなど、不運でしかない。
ご愁傷様という言葉がぴったりだ、と幽玄は思った。
そう思うのだが、ここで犬死するのも後味が悪い。
そもそもこういう時の為に嫌という程仕込まれていた知識や技を持っている。
実際使うことは初めてで、どれだけ効果があるのかも未知数だった。
だから、両手を振って帰れるという期待は捨てていた。
足掻くぐらいは覚悟を決める。
(さて、どうするか──だ)
辺りを見回して武器を探す。同時に脱出できそうな経路を調べ始めた。
汚部屋には色々なものが転がっている。
(モノには不自由しないだろうな)
そんな事を考えながら、転がっていた酒瓶を手にした。
「それ、どうするの……?」
フユキはこんな状況で何かをしようとしている幽玄が不思議で堪らない。
何をやっているのか段々興味も湧いていた。
「取り敢えず脱出できるかやってみる」
「ダッシュツ……?」
「ここから逃げるってことだ」
そう説明しながら、辺りに脱ぎ散らかされていた異臭する服を酒瓶に巻き付けた。
巻き付けたそのまま一番硬そうな場所玄関の床に叩きつける。
音はあまり響くこともなく、鈍い音と共に巻き付けていた服のシルエットが変わっていた。
布を取り外すと、割れた部分が鋭利な刃物状態でちょうどいい武器と化していた。まあまあ持ちやすい。
一つ、それをフユキに持たせる。
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