Ⅰ後編【アナレプシス──回想】

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もうフユキから涙は流れていなかった。 幽玄は逆に感心する。 最初はどうしようもない程不安な色をしていた目が、覚悟を決めていた。 カタギのそれも少女にそんな度胸があるとは驚きだった。 別に幽玄が場慣れしているわけではない。 ただ、同じ穴の狢というのかその世界で異質が常識のように育ってきた。 だから、少々の事でも動じない精神と化したのだと幽玄は思っていた。 同じような今の状況で、それをフユキに求めるのは酷だと思っていたのだ。 それは仕方のない理だと認識していた。 それがフユキの瞳に光が戻る。 何故か幽玄は勿体ないと思ってしまった。 子どもながらに、人を見極める目は培われてきた。 その目が──勘が幽玄に告げる。 一瞬、フユキもこちらの世界の人間なのかと錯覚してしまった。 「お前の母親はあの出入りしている女だろ?」 幽玄は情報の整理を始めるかのように、今までの状況を質問し始める。 「出入り? あ、うん。やくづくりしているって言ってた」 「役作り……か」 母親は女優だという事は聞いていた。 では……。 「父親は何してんだ?」 「お父さん? 仕事している人」 アバウトな返答が返ってくる。 幽玄は首をひねった。 「仕事している人……何の仕事をしているんだ?」 「うーん、知らない」 フユキは特に気にすることなく、それが普通のようにそう話す。 何となくそれで幽玄の中に答えが出た。 (言えない仕事……なのか。それなら何となく納得かもしれない) 自分の中で一つ答えを出す。 そして、それなら話は早いと位置付けた。 「多分大丈夫だな」 そんな事をつい呟く。 「えっ、何か言った?」 フユキは全く気にしないかのように、その言葉に反応したが突っ込むことはしなかった。
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