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◇
足音に対して幽玄は期待していた。自分のところの組員なり兄たちかと一瞬思ったが、思惑は見事に外れてしまう。
ガチャガチャ鍵が開くと入ってきたのは、見た目的にもそれなりなゴロツキ集団だった。
それも若い。二十歳前後なのではないのか? と思わずにはいられない程である。
コンビニかどこかから買ってきた袋を持ち、「まぢだりぃ」等と愚痴りながら入ってきた。
幽玄はさり気なくフユキを奥へ誘導して、自分もその隣に座り縮こまる。
「こいつら、いつまで置いときゃーいいんっすか?」
入ってきた一人が、幽玄とフユキを訝しげに眺め愚痴を言う。
集団の中に一人だけスーツ姿の男が居り、ネクタイを緩めながら「上がいいって言うまでだよ」と曖昧な返答をする。
(この男が伝令役ということか)
ジャケットを抜いて座り込み一服するその男から、この集団の関係性を探っていた。
(下っ端に仕事をやらせておいて、今は待機っってことか。ウチの出方を待ってるんだろうな)
そんな事を分析しながら、ふと幽玄は兄たちの言葉を思い出す。
〝捕まった時にはできるだけ刺激させるなよ〟
〝そうそう、自分でどうにかしようとか思わないことだね。少々の事には目を瞑り我慢する事〟
白夜と玉響がそう忠告していた言葉を思い出す。
(大人しくしておくか──)
そう思うと、言葉を発することなく、その場を傍観していた。
一人のチンピラが「おい、お前らにもやるよ」と言い、コンビニのおにぎりを投げて寄越す。お腹は空いていなかったが、とりあえずそれを一つづつ手にした。
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