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どうやら御子息という言葉もよく分かっていないらしい。
(俺とこいつ、どちらがその〝御子息〟というものか分かっていない)
そう思うと勝機がチラつく。
てっきり自分が息子だと分かっての誘拐だと思っていた。
実際はお粗末な計画に曖昧な情報──幽玄でもなんとかなりそうな勢いだ。
だが、こちらにはフユキがいる。下手に動いて何かあると色々面倒だと感じた。
一応母親というものは来客という扱いだった。その娘に何かあれば『ごめんなさい』で済ませられる問題ではない。
それは小学生の幽玄でも理解していた。
この場合、尻拭いに自分が買って出る必要はないかもしれないが、幽玄自身がそれでは納得できなかった。
不動家の人間がそんな無責任なことはできない。
このままこいつらは大人しく騒いでおいてもらうのが理想だった。
「そう言えば血脇さんには伝えたのか?」
ひとりのチンピラがケタケタ笑いながら尋ねる。
幽玄はピクリッと肩を震わせた。
(な……に!? 血脇って言ったか!!)
その名前を幽玄は知っていた。
(この世界で血脇なんてそうそう居ないはず。どういうことだ!)
動揺して冷や汗が流れ落ちる。
幽玄は、今朝もその男にあったばかりだったからだ。
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