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(お前が!?)
ビックリするのも無理はない。
その名前の男を幽玄は知っている。
幽玄の屋敷には誰でも気軽に入ることは許されていない。
入ることを許されている者は、それなりの地位を築いている者である。
又は絶対的な信頼のある者であった。
血脇という苗字はそうそう聞かない。
この界隈では多分幽玄の知っている男一人であろう。
それは幽玄も理解していた。
だからその名前と人物が一致してしまう。
血脇という男はもう年齢もそこそこのいい初老の男だった。
ご意見番に近い存在で屋敷の敷居を跨いている。
幽玄たちにとっても爺的な存在であった。
優しい印象な外見なのだが、実際は誰よりも分別を弁え、時と場合を冷静に見極めることができる男だと認識していた。
だから組長である父親が信頼していたという経緯もある。
幽玄を含め、その忠義に対して疑いはなかった。
(どうしてあの男が!?)
流石に幽玄も動揺が隠しきれず、思考ばかりが先走る。
(白兄たちも何も言ってなかったのに──)
そんな恨み言まで口走り、違和感を覚える。
(あれ。確かに白兄は何も言っていなかった。そして、ゆら兄……は?)
違和感が鮮明なものとなるにつれて、覚えている記憶が整理されていく。
血脇と幽玄たちの関係は良好であった。
だが──。
(ゆら兄の記憶が無い)
その違和感に気付くまで少し時間はかかった。
部屋から出てこないから気にしていなかったのだが、血脇に懐いている玉響を幽玄は見た事が無いことに気付く。
単に引きこもりだからだと、気にもしていなかった。
だが、そんな些細なことが今となっては考える大きな手助けとなった。
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