Ⅱその裏幕の足音

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ドアがバタンッ、と勢いよく開く。 そしてドカドカと入ってた足音に、できるだけ顔が見えないように幽玄は膝を抱えて俯く。 だがそんな抵抗など空しく、幽玄は髪を掴まれ持ち上げられた。 「これは──どういうことだ!?」 その男の声は焦っているようで声を荒げ叫ぶ。 一方幽玄は、髪を掴まれたまま顔を無理やり上げさせられる。 幽玄は覚悟を決め、その男と対峙した。 確かに、その男は血脇であった。 自分を持ち上げている男は力を緩めるそぶりは見せない。 目の前で目が合った幽玄は「朝振りだよな、血脇」とニヤリと笑う。 血脇は目を逸らすことはなく、只々静かに震えていた。 言葉も出ないようである。阿修羅の様な形相からもそれが怒りからだということは、誰でも手に取れた。 「……どういうことだ。とういうことなんだ!!」 血脇は顔を真っ赤にして、踵を変えると傍の男の胸ぐらを掴み上げた。 「命じたのは不動のガキじゃない!! あの女のガキだ!!」 (俺じゃない!? こいつか!!) 想定外の血脇の言葉に、幽玄も動揺する。 (てっきり間違えられて拉致られたんじゃないのか! 俺の方か!!) 本命は自分ではなかったことに、今までの考察が根底から崩れていくのを感じていた。 「これは困った。流石に幽玄さんがここに居ては儂も困る」 血脇が困った口ぶりをみせるが、結論は決まっている。表情には全く迷いが無かった。 そして、幽玄の首筋にぶら下がっていたチェーンを引きちぎると、床に落とし粉々にしてしまう。 「既にバレているのは承知よ。助けが来る前に証拠は何もなくなるけどな」 そう言いながら、クククッと喉を鳴らして笑みを零す。
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