Ⅱその裏幕の足音

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幽玄は岐路に立たされていた。 一矢報いることは造作の無いと、小学生の幽玄でも考えている。 ただ、今回は根底が覆された。自分がターゲットではなくフユキが必要であって、幽玄は厄介なお荷物なのであった。 (あれ……? もしかして俺って必要ない人材じゃね?) この場に必要な人材ではないということは、消されるという事実。 死体が出たら厄介である。最終的には痕跡すら残らないだろということは何となく分かっていた。 たまに死体処理の現場に立ち会ったりしていると、嫌でも知識が付く。 その処理が実際自分に成されるのかと思うと、何か皮肉めいていた。 (消え去る前に暴れてやるか) その意見に、精神内の全ての幽玄が賛同する。 (では迎えが来るまで、生き長らえようか) そう思い、時期を計る。 (今は血脇がいる。こいつには勝てん) それは分かっていたことだった。初老と言えども、血脇の武勇伝は幽玄も聞かされていた。 数々の武勲がある男が今は裏切り者として目の前にいる。 純粋に『勿体ないやつだったな』と思うしかなかった。 血脇は何か言いたそうにして、その言葉を止めていた。 「お前らに任せられんな。こいつはオレが始末しよう」 それは呆気ない結論だった。 血脇が出した一丁の拳銃に、幽玄は内心焦る。 まさか自分で処分してくるとは思わなかった。だが一番確実な方法ではある。 内心そういうものだと納得しながらも、自分の生き長らえる道を模索した。 もうこの場で殺ってしまうのであろう。「掃除が面倒だから風呂場で殺ってしまう」と指示を出す。 幽玄の抵抗も空しく引きづられていく。 そして扉を閉めるとサイレンサーを装着させた。 幽玄を押さえつけているのは大の男が二人。 どう抗えても捉えられた腕を外すことも逃げ出すこともできない。 これは流石に覚悟すべきか──幽玄は自分を殺そうとしている男を睨み上げた。
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