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予定を考えながら慣れた路地を歩き……行き交う人を交わしていく。
こんな繁華街の路地裏に真面目そうな学生が学ランで歩いていること自体滑稽であった。
しかし、組のシマでは大抵は幽玄の事情を知っている。
この学生に絡む命知らずは……ほとんどいなかった。
たまに客引きに捕まると「幽玄さん、今日はどうです?」「たまには寄って行ってよぉ~♡」等と声を掛けられるのを「またな」と軽くあしらう。
そして進んでいく小汚い路地裏の一角に……のラブホテル〝フライハイ〟は存在していた。
そのネーミングは……突っ込まない。
誰も組長の付けた名前に、意義だと唱えることはできない。
ホテル自体が古いため、幽玄の物心付いた時にはその名前だった。
幽玄には興味がない為……放置である。
長男であるヤリ手経営マンの兄、白夜は……「今の世の中にそぐわない」と改名を検討しているが……未だに親父である組長を説き伏せることはできなかった。
「そのうち、白兄に乗っ取られ別なものになるんだろうけどな」
そんな事を幽玄も期待している。
兎にも角にも組長のセンスは、昭和の遺物であった。
ラブホに着いて、裏口の扉を開けた時……扉の向こうに人がいることに気付かず思い切りぶつかってしまう。
「っつ……いっ……たい」
「あ……わりぃ」
何気に幽玄は軽く声を掛ける。
そして顔面を打ったらしい従業員の女は、その場で顔を押さえていた。
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