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「失礼……します……」
声も途切れ途切れ気味で、斑雪は応接室をノックした。
店長が「どうぞ」と言い、中へ入る。
そこには案の定、クラスメイトの不動幽玄が据わっていた。
心なしか口元がニヤついているのは勘違いであって欲しいと、斑雪は恐縮する。
まさか店長と幽玄が知り合いとか想定外であった。
そしてこのバイト先がバレるとも思わなかった。
経歴詐称や学校への対応、考えると斑雪の未来は暗い。
斑雪にとって、融通も聞くし案外時給も良いこのバイト先はライフラインなのだ。
それが今、消えようとしている。
もしかしたら学生という身分も……消えようとしている。
まさに八方塞がりとはこのことだった。
斑雪が入ると同時に、無言で店長は扉に手をかける。
扉がパタンッと閉まる音が、死刑宣告にさえ聞こえていた。
「不知火さん、どうぞ」
幽玄は何言うでもなく、斑雪に着座を勧める。
仕方なく斑雪はソファーの向かい側に座った。
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