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本当に……殺しも、金も、女も、何も幽玄を満たしてはくれない。
何故なのか考えるのもめんどくさくなってしまっていた。
だから、その日暮らしの『お使い』も甘んじて受けて実行する。
それが小さなことでも、ヤバいことでも厭わなかった。
それくらいしか、日常のスパイスになるものがなかったのである。
「あーそれでも、流石にパンの耳にマヨネーズは思いつかんかった」
ふと思い出すヘンテコな体験に、つい言葉が口から滑り落ちる。
「なんだい? そのパンの耳にマヨネーズとは?」
目ざとく玉響が質問を投げかける。こういう勘は野生以上に鋭かった。
この場合、玉響に対して隠し事をすると後々が面倒くさいのを、幽玄は知っていた。
「いえ、拾われたクラスメイトの女の家の……朝食がそれだったんだ」
「へぇーなるほど。ふーん、そーいうことか」
玉響は面白そうに目を細め考え込む。相変わらず鋭い何かが働いている様であった。
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