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⑦家業の手伝いの中で
相変わらず裏路地を闊歩していく。
声を掛けられるのを適当にあしらい、目的地の前に白夜の事務所の一つへ向かった。
滅多に彼のテリトリーには踏み込まないのだが、新店長と会う前に何かしら情報が欲しい。
あの兄に貸しとか嫌でしかないのだが、そんな自分のちっぽけなプライドなんざ、今はどうでもいいと割り切ってしまう。
足元を掬われるのが、一番致命傷となりかねないのである。
こんなことを感覚的に考えるようになったのも、結局は生まれ育った環境に由来すると、幽玄はいつの間にか悟っていた。
ビルの一角。今日はそこに白夜がいることは掴んでいた。
ただし、お伺いは立てていない。
毎回、そんなものなので白夜もどうこう言わなかった。
受付では顔パスで、白夜のオフィスへ通される。
「相変わらず突撃訪問しかしないな、お前は」
等と白夜に皮肉を言われながら幽玄は勝手知ったるかのように、その部屋のソファーにドカッと腰を下ろした。
「今度、新店舗稼働しますよね?」
「あぁ、ソープランドだったっけ」
全て理解しているが、敢えて白夜は言葉を曖昧にする。
そうすることによって、相手の本題や情報を多く引き出し、我がモノとするためだった。
白夜の常套手段である。
「行けと言ったのは白兄です。あの店の店長の情報を全て出してください」
「またそんな『出せ』的な。お前は兄を何だと思っているんだ?」
言い方はまだへりくだっているのだが、態度は全く比例していない。
また幽玄の不遜な態度は、今に始まったものではない。
ただ、放置するほど白夜も甘くはない。
その雰囲気を幽玄は察し、言い直す。
「今から顔を出しに行きます。教えてもらえると助かります」
今度はちゃんと頭も下げる。
白夜は溜息一つ吐き出し、それを承諾した。弟には甘いところもある。
「それでもギリ及第点だぞ」
そんな指摘をしつつ、パソコンを開くと何やらキーボードを叩き出した。
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