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白夜はそう言い、机を指でコツッコツッとはじき出した。
どうやら人に対して尻尾を絶対見せたがらない…というか、尻尾すら無いように立ち振る舞う白夜にとって、急所を晒している身内の案件は面白くないらしい。
今まで気付かなかったとは思わないが、そこには裏がある様に幽玄は感じ、眉をひそめる。
(まだ何か隠してやがるのか)
幽玄は心の中で溜息を吐き、兄の言動を観察する。
白夜に少しずつ不機嫌さが増しているのが、指ではじく机の音で読み取れた。
(あーあの男、折角店任されたのに終わったな。多分、その処理は自分に回ってくるんだろうなぁ、面倒くさい)
幽玄は今後の予測を軽く立てながら、今からの予定を考える。
さっさと処理してしまったら終わりなのだが、燻っていると話していた案件である。それを放置は大火になりかねない。
──何故それを放置したのか?
──何故今更その案件を自分に振るのか?
隙を見せない白夜にしては珍しいこともあるんだな、と思い巡らせる。
結論は出ないが、鎮火させていい頃合いで自分に尻拭いをさせる気なのであろう。
何故こんな後始末をしなければならないのか? と、呆れ口調で白夜にお伺いを立てる。
「俺、今からそいつのとこ行く予定だったんですけど、出直した方がいいですかね?」
これ以上は関わりたくないとばかりに幽玄が立ち上がった。
「ふぅーん……そーくるのか……って……──え……あ、それは……クソッ」
白夜は幽玄の事などお構いなしで、玉響とは別な人外処理能力を持っている頭をフル回転している様だった。
そして、時々「これどー言う事なんだよっ!」と机を蹴り飛ばしている。
白夜がこうも感情を表に出すのは珍しい。
(何にイラついて、今更ながら何に頭使ってんだ?)
白夜の苦戦しているものが掴み切れない幽玄。
大抵、こういう場合は『触るべからざる』という暗黙のルールが存在する。
(一度ゆら兄にもお伺い立ててからの方が無難か)
白夜が表なら、玉響は裏で総括しているようなものだった。
同じ情報は既に把握しているであろう。
そしてあの兄なら、全てに於いて対策も既に終わっていると考えられる。
また下手にその予定を狂わせると、自分にも火の粉が降りかかるかもしれない危険性があった。
集中している白夜にこれ以上声を掛けても反応はない気がして、幽玄は部屋を出ようと立ち上がる。
「幽玄、取り敢えずそいつとの面会は行けよ」
顔を上げることも幽玄を見ることもしないまま、自分の世界に入ってしまっているとばかり思っていた白夜が、そう声を掛けた。
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