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「へぇー、百兄がこの状況であっても直に俺に行けと言うとは、何か裏がありますね? それならそれで何か『餞』ぐらいは出してくれてもいいんじゃないです?」
幽玄は思ったことをストレートに要求した。
これ程キナ臭い人間に対して、『会いに行け』と慎重派の白夜が押し通すのはおかしい。
そもそもこんな不祥事は見逃さない。
幽玄からしてみたら、どう考えても何か裏があるとしか思えなかった。
白夜は何も言わない。
一瞬溜息と共に頭を垂れていたが、すぐに「これでいいんだろ?」と呟く。
「何も言わず行ってこい。因みにオレもカラクリは分からん。ただ……玉響からの指示なんだよ」
白夜がそう言いながら『やれやれ』と言わんばかりに、幽玄を追い出そうとする。
幽玄は白夜の『玉響』という言葉に眉をひそめた。
「ついでに、そろそろ約束の時間だろう?」
その言葉を添えると、幽玄は時計を確認し渋々立ち上がる。
「まだ、ゆら兄からの指示だったら信憑性と確証が何か付いているのでしょう。行きますよ、そしてまた報告しますよ」
その嫌味に、白夜も『ハイハイ』とカラ返事で答える。
何も言わず部屋を出ていく幽玄。
──……バタンッ。
扉が閉まる音が響き幽玄の足音が去っていくのを、白夜は只々静かに確認していた。
「これでいいんだろ? 玉響」
パソコンと格闘していた視線を更に下げ、デスクの足元へ向ける。
それは呆れを通り越して、憐みの視線に近かった。
足元には何故か玉響が隠れるように隠れている。
「いい塩梅だよ」
そういうと、思い通りに事が運んだのが嬉しいのか、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ありがとう、白夜。ついでにちょっと僕も助けてくれると嬉しいんだけど……この体勢はやはりきつかったかな。眩暈がするし吐きそう」
笑っていたのもつかの間。直ぐに玉響の顔色は青ざめていく。
白夜の足元で丸くなって隠れていたのだが、急にその場で「うっっ……」とか言いながら嘔吐し始める。
白夜は「お前やっぱ馬鹿だろう……」と呆れ返る。
そして動じることはなく、内線を鳴らして人を呼びつける。
数名が部屋に到着するまで、怒ることもなくただ呆れて玉響の背中を擦り眺めていた。
玉響は虚弱体質なのに、無理を押してこういう茶目っ気を出したがる。
ただ、笑えないのが残念な所だった。
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