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その新しい店は、風俗街と言われる場所の一角に存在していた。
幽玄にとってこの場所は庭みたいなものである。別段、特に気にすることもなくその路地を進んでいく。
途中から、幽玄の背後を数名程、スーツ姿の男が後を付いて歩く。
幽玄はそれを気にすることもなく、振り返ることもない。
「別に呼んだ覚えはないが、律儀だな阿紀良」
振り返ることなく、後ろに着く男の一人に対しそう声を掛ける。
「これはオレの仕事だ。気にするな」
阿紀良が後ろに待機しているのは、いつもの事であり振り返らなくても分かっていた。
「白兄のところに寄って、ゆら兄まで話しに出てきた。お前にも直ぐに情報が流れたんだろ? 俺の行動とか」
皮肉っぽくそう尋ねる。
阿紀良は「あまり苛めるなよ」と苦笑した。
「いや、来てくれてちょうど良かった。また『接待』なんぞに捕まったら敵わん」
幽玄がゲッソリした顔で、本音を漏らす。
「あははっ、折角だし息抜きしてくればいいじゃん」
阿紀良は愉快そうに、そんな幽玄の嘆きを一蹴し笑う。
冗談だと分かっていても、幽玄は面白くない。
「はぁ? そんなに飢えてるんなら許す。好きなだけ遊んで帰れ」
ギロリッと睨み、自分の代わりと言わんばかりに阿紀良へ押し付ける。
ハハハッ……と目を泳がせながら、阿紀良は明後日の方向を向いて視線を外した。
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