⑦家業の手伝いの中で

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「一応、今回は『お目通り願いたい』だけなんだろ? なんで向こうから出向かないんだ。馬鹿にするにも程がある。一回?」 阿紀良は苛立ちと共に、ご尤もな意見を幽玄にぶつける。 それは周りが全て思うところであった。 高校生と言えども『次期組長候補』である御子息自ら出向かせたら箔が付く。そんなことだろうと容易に想像はつく。 幽玄も途中から面倒くさくなっていたのも確かだ。だから適当に白夜のオフィスの一室でも借りて、呼びつけようと思っていた。 しかし、何故か白夜は『行け』と指示してきた。 何もなく、そんなことを言う兄ではない。白夜の方が上下関係には煩い面も持ち合わせていた。 そんな白夜が言うのだ。そこに何かが存在する。 「元々新参者で、ウチの敷居を跨げる程ではないからな。おいそれとお目通り願っても門前払いだ。それでも一応新店舗を任され、ご挨拶はしておきたかった。だから『よく視察に来る三男の方から御足労頂こう』と思ったんだろう。切れ者なのか愚者なのかさっぱりわからん」 幽玄は自分の見解を阿紀良に聞かせる。 その言葉に阿紀良も状況は理解したが、それでも納得は行かない様子であった。 ブツブツと何か呟きながら考え事をしている。 こんな時の阿紀良は、触らぬ神に何とやらである。よくない事を考えているのが、表情から読み取れた。 幽玄は阿紀良とは付き合いが長い。 こんな感じで闇堕ちしている阿紀良は、別にいつもの事である。気にする必要もなかった。 そんな会話をしていると、背後から『着きました、坊ちゃん』と声がかかる。 「へぇー、今回はお上品にいこうって寸法か」 感心しながら、幽玄は建物の外観を軽く眺める。 見上げた店の外観からは、とてもこれが風俗店だと想像つかないようなラグジュアリー感を醸し出していた。
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