⑦家業の手伝いの中で

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「今回は裕福層がターゲットだとか」 そんなことを背後に控えていた者から説明を受ける。 「金持ちをカモるってことだな」 阿紀良が身も蓋も無い事をサラッと口にする。そして嬉しそうに笑みを浮かべた。 「分かってても自重しろよ」 溜息交じりに、幽玄は口走った阿紀良に対して注意する。 急所は晒さない。当たり前だがこの業界では鉄則だった。 そして阿紀良から受け取ったヘアワックスで髪をかき上げると、制服のジャケットを脱ぎ、阿紀良から手渡されたネクタイを緩く締め直す。 普段は前髪で隠されていた瞳は血の気を帯び、元々の性格を露にする。 「さて、化かし合いといきますか」 そう呟き静かに口角を上げる。幽玄は獲物を前にして、狩る瞬間を考えるのが至福の時だった。 ──どう料理しようか。 どれだけ自分の手が血に染まろうが全く気にしない。 刹那的な快楽が今の幽玄にとって、一番の喜びだった。 白夜が行けと言ったのだ。 これは幽玄に許可を与えられたも同然である。 〝好きにしていいぞ〟 それを許したのだ。 実際に幽玄が来ることは店に伝えられていた。 入り口には店とは似つかわしくないような連中が出迎えている。 お陰で、店の周辺には異様な雰囲気を醸し出していたが、それをどうこう思う奴らはこの界隈にはいなかった。 同じ穴の狢である。 全ては把握済であって、口出しする事もなかった。 特に『不動組』に対しては、触れてはいけない匣だと認識している。 上手く付き合い立ち回ることで得られる恩恵も熟知していた。 そんなことはここでは常識だった。 不動家の御子息が正面からやって来たことはチャンスなのである。 少しでもお近づきになる事が、ここではどれだけ有益な事となるか……チャンスを求め虎視眈々と皆が狙っていた。
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