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「今回は裕福層がターゲットだとか」
そんなことを背後に控えていた者から説明を受ける。
「金持ちをカモるってことだな」
阿紀良が身も蓋も無い事をサラッと口にする。そして嬉しそうに笑みを浮かべた。
「分かってても自重しろよ」
溜息交じりに、幽玄は口走った阿紀良に対して注意する。
急所は晒さない。当たり前だがこの業界では鉄則だった。
そして阿紀良から受け取ったヘアワックスで髪をかき上げると、制服のジャケットを脱ぎ、阿紀良から手渡されたネクタイを緩く締め直す。
普段は前髪で隠されていた瞳は血の気を帯び、元々の性格を露にする。
「さて、化かし合いといきますか」
そう呟き静かに口角を上げる。幽玄は獲物を前にして、狩る瞬間を考えるのが至福の時だった。
──どう料理しようか。
どれだけ自分の手が血に染まろうが全く気にしない。
刹那的な快楽が今の幽玄にとって、一番の喜びだった。
白夜が行けと言ったのだ。
これは幽玄に許可を与えられたも同然である。
〝好きにしていいぞ〟
それを許したのだ。
実際に幽玄が来ることは店に伝えられていた。
入り口には店とは似つかわしくないような連中が出迎えている。
お陰で、店の周辺には異様な雰囲気を醸し出していたが、それをどうこう思う奴らはこの界隈にはいなかった。
同じ穴の狢である。
全ては把握済であって、口出しする事もなかった。
特に『不動組』に対しては、触れてはいけない匣だと認識している。
上手く付き合い立ち回ることで得られる恩恵も熟知していた。
そんなことはここでは常識だった。
不動家の御子息が正面からやって来たことはチャンスなのである。
少しでもお近づきになる事が、ここではどれだけ有益な事となるか……チャンスを求め虎視眈々と皆が狙っていた。
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