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その男は不遜な態度で幽玄を出迎える。
「これはこれは幽玄さんが直々にお越しとは、恐悦至極に存じます」
出てくる言葉も白々しい。そんな男に対して、阿紀良の表情が曇る。
「あーこれはオレに任せる案件だよな」
喉の奥を鳴らし、ククッと背後で阿紀良が笑った。
もう始末する気満々のようだった。そして幽玄はそのことには一切触れない。
阿紀良と同じく、この男に明日は来ない事は分かり切っていたからだ。
──どうしたらここまで思い上がれるのか?
幽玄からしていれば、逆に興味が涌いてくる。
白夜からは、えげつない方法を使い開店まで漕ぎ着けた、という事は聞いていた。
それなら普通ビジネス分野に於いて、管理者である白夜が処理するのが筋である。
逆に幽玄が立ち入るのはお門違いであった。
しかし今回は白夜から許可が下りているのだから、権限は幽玄に与えられていた。
別にこの男を処分してしまっても、何してもお咎めはない。
そして、幽玄に対してマウントを取った気でいる態度を許容する義理も無かった。
「さぁ、どうぞ。ちょうど開店前の最終チェックをしていたところです。よかったらお好きな泡姫をお試しいただいても……」
その男は既に接待の準備は整っているとばかりに、後半部分を強調して幽玄を案内する。
そのニヤついた顔に虫唾が走ると同時に、『あーやっぱりこのパターンだな』と通り一遍な接待にゲッソリした。
別に幽玄は女に不自由したことは無かった。
向こうから勝手に寄ってくるのである。逆に幽玄の方が見極める必要があるほど、常に女の影は傍にあった。
それは幽玄だけではない。
白夜は未だ結婚しておらず、その地位を狙う女はゴマンといる。
玉響に至っては、普段から引きこもりな人間なので、存在すらあまり知られていない。
それなのに、たまに部屋を出入りする女がいることが幽玄にはちょっとした『不動家ミステリー』となっていた。
結論、兄二人もそれなりに不自由していない。
それなのに今更この手でくるのかと思うと、笑いを通り越して憐みすら感じる。
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