⑦家業の手伝いの中で

15/18

110人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
その場の空気は冷ややかで、意識はどこへ向けられているか分からない程張り詰めていた。 廊下の向こうで暴れている声が、その静寂に時間軸を描写させる。 ──……そんな内輪の揉め事ぐらい、幽玄がいるこの時を避けることができないのか? 幽玄も彼の後ろに控える者も、誰もが呆れて指摘すらしない。 だが逆に、余りにもお粗末な展開に幽玄は違和感を覚えた。 その裏付けのように、店長である男は動揺していた。 この展開はどうやら想定外なのが誰からも伺える。 「いえ、その……今日は少し想定外と言いますか」 そんな言い訳を繰り出し、流れ落ちる汗を拭っていた。 この喜劇にしても笑えない状況に、阿紀良は幽玄を見る。そして幕引きを提案した。 「ユウ、もういいか?」 外野は他の者に任せ、阿紀良の銃口は店長を捉える。 しかし、幽玄は無言で制止した。 いつもはあっさりとしている幽玄なのだが、今は歯切れが悪かった。 どうしても何か引っかかっているようである。それが判断に迷いを生じさせていた。 (なんだ? この違和感ばかりの展開は) 自分がこれほど翻弄されるのはいつ振りであろうか、と思いを巡らせる。 やはり頭を過るのは、玉響という普段は出てこない兄の存在だった。 ──……何を企んでいる? 未だに、幽玄はその答えが見えてこない。 だが、その答えはすぐ目の前に存在していた。 扉の向こうで問答している争う声に、幽玄の傍で控えていた者が一斉に銃を構える。 狙われているのが幽玄である可能性も考えられ、先手を打とうと扉を蹴り破った。 ──……ドォォンッ!! 「きゃっ!」 扉を蹴り破る鈍い音と同時に、小さな悲鳴を幽玄は捉える。 視界に飛び込んできたのは、扉の向こうに小さく蹲っている場違いな女の子。 「──……!?」 柄にもなく、幽玄の思考は一瞬停止した。 そして彼女について見間違いではないと、幽玄は自身を疑う。 そこに蹲っているのは、確かにクラスメイトである不知火斑雪だった。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加