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それは阿紀良も同じだった。
幽玄のクラスメイトであり、最近話題に上がっていた斑雪の出現に、昂りがサーッと血の気と共に下がり、一気に意識が醒めていくのを感じる。
〝絶対、クラスメイトに幽玄の素性を知られてはいけない〟
これが幽玄からの最重要命令だった。
咄嗟に幽玄を隠すかのように、幽玄と斑雪の間に立ち「お前らっ、扉を閉めろっ!!」と命じる。
その号令に、全員我に返るかのように意識を戻すと、扉を閉めようと手を掛ける。
「いやっ、ちょっと待て」
逆に幽玄は隠れることもせず、阿紀良にそう告げる。
そして「この茶番を説明してもらおうじゃねーか」と不敵な笑みを浮かべた。
阿紀良は幽玄に視線を送り、どうしたらいいのか迷っていた。
幽玄の命令は絶対である。それでも、バレることを天秤にかけると、天秤はどっちに傾くでもなく激しく揺れていた。
「こんなことでビクついてんじゃねーよ」
そんな考えが手に取るように分かるのか、幽玄が動揺する阿紀良を見てククッと笑う。
「でもユウ! アイツは……!?」
「大丈夫だ、今の俺は『ひ弱で陰キャのDK』じゃねぇよ……な?」
その言葉が何を意味しているのか、阿紀良も察し銃口を下ろす。
そして店長に「長生きしてーんだったら、わかってるよ……なぁ?」と急かした。
「は……はいっ! あの男が借金の形に妹差し出すって言うんで……。ウチでも若い女は多いに越したことないんで、利子代わりに承諾した次第でして」
上擦った声で必死に、店長は事情をそう説明する。
幽玄は目を細め、暴れている男に目を遣り「あれがクズな兄貴ってやつか……」と呟く。
そして何か考えている様だった。
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