⑦家業の手伝いの中で

17/18

110人が本棚に入れています
本棚に追加
/145ページ
「いいぜ、二人とも連れて来いよ」 そう言い、阿紀良に顎で命じる。 「ユウっ! お前何考えてるんだ!?」 「落ち付けよ、阿紀良。この茶番のシナリオを手掛けたのはゆら兄だ。興に乗じてやろうじゃねーか」 「なに……あの玉響さんが?」 意外な人物が挙がり、流石に阿紀良も納得せざるを得ない。 あの人類では理解できないスーパーコンピューター脳の考える事は、もはや神の域だと阿紀良は思っていた。 その前に、阿紀良も不動家の兄たちに異議議申し立てを許されている立場でもない。 「ハッキリ言っておくが、何が起きてもオレは知らないからな」 阿紀良は呻くようにそう告げ、暴れている兄という男と、斑雪を幽玄の前に引きずり出した。 暴れていた兄も、斑雪も……二人とも、凶悪な人相の前に引きずり出されるとばかり思いこんでいたのだが、実際は若い青年が座っている。 その隣に立っている阿紀良は、斑雪でも知っている顔だった。 「あれ……恐神……くん?」 状況は最悪ではあるが、学校で一番関わってはいけない最凶な男でも、顔見知りだと安心感が違っていた。 阿紀良は何も言葉を発することなく、斑雪を含む二人をその冷ややかな目で見下ろす。 そしてボスである幽玄の言葉を待つ。 幽玄はそんな二人に対し、言葉無く目を向ける。 (これがあの報告にあったクズか……妹を平気でこんな所に差し出せるとは、本当にクズなんだな) そんなことを考えながら、鼻で笑う。 人は保身の為ならなんだってやる現状を、幽玄は飽きる程見ていた。 特に命のやり取り時は、これが顕著にあらわれる。 この兄が可笑しいのではない、それが人間の業なんだと理解している。 「……お前、それ妹だろ? 意味わかってんのか?」 表情一つ変えることなく、幽玄は斑雪の兄に尋ねる。 それは幽玄なりのファイナルアンサーだった。 その声に一瞬既視感を感じた斑雪は、阿紀良に向けていた視線が座っている幽玄へ引き寄せられた。
/145ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加