⑦家業の手伝いの中で

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(この声……どこかで聞いたことある気がする) 本当のところは思い出せない。ただ、聞いたことがある程度だ。 再度その声の主を見るが、髪を軽く後ろに流し、ジャケットを羽織っているこの若い男は記憶にない。 容姿から若いことは何となく捉えることができる。 だが、こんな冷たく見下す瞳は斑雪の記憶には無かった。 「斑雪が……妹がいいって言ってんだから、いいんだよっ! 合意の上だ、文句あるのかっ!」 兄の叫びで、斑雪も我に返る。 自分が置かれている状況を再認識し、押し黙ってしまった。 そんな二人を、幽玄は黙って眺めている。 他所様の家庭内事情なんて、幽玄には知った事ではない。 本人がいいって言っているのなら、問題ないのである。 後に残る社会的な問題は、勝手にこちらで法の目をかいくぐればいい。そんな心配は一切なかった。 今までそうやって沈めてきた。 泣きながら沈んでいく者には幾多となく遭遇してきたが、幽玄には何の感情も湧かなかった。 そいつらの人生に感傷していては、精神がいくら鋼でも持たない。 沈められる状況へ誘導された方が悪いのである。 だから、幽玄には全く感情は伴わなかった。 今、微かに引っかかる感情に、幽玄は動揺していた。 斑雪がどうなろうと知った事ではない。そのはずなのだが……。 「おい、こいつの借金って、この女だけで何とかなるのか?」 幽玄が再度確認する。 「働き次第だと思いますが……現時点では足りないと」 びくつきながら、店長はそう説明する。 幽玄は「ふぅーん」とカラ返事をし、「じゃあ、足りねぇんだよな」と口にして、ニヤリと笑った。
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