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◇
その部屋がVIPルームなのか斑雪には分からなかったが、とても高そうな部屋なのは、広さと雰囲気で分かる。
しかし、今はそんな事はどうでもよかった。
店長に引きづられ別室へ連れて行かされる。
そこで今まで着たことがない、布面積の少ない透けているベビードールを渡された。それは拒否権のない無言の指示だった。
「着替えないっていうんなら、着替えさせるぞ!」という脅しに対して、拒否権もなく恐怖で固まり二つ返事で着替えたのである。
着替えて斑雪自身がビックリするほどの布面積だった。
もう身を捩って何とか隠そうとするが、それは叶わない。
直ぐに店長に腕を掴まれ……今はこのVIPルームにいる。
連れてこられ、押し込むようにこの部屋へ案内された。
その後、店長という男に散々怒鳴られる。
「本当は色々と指導してから出したいんだが、仕方ない。おいっ! 死にたくなかったら粗相のないようにしろよっ! あの御方が誰か分かってるだろうなっ!」
そんなこと言われても、今連れてこられた斑雪には右も左もわからない。
「あの、その前に……できれば羽織るものとか……」
斑雪からしてみればその方が重要だった。
「はぁ? お前自分の立場とかわかってんのか!!」
また怒鳴られ、「ヒィッ」と小さく悲鳴をあげる。
斑雪は泣きそうだった。
自分がこれからどうなるのか、朧気だが分かっていた。
それでも現実逃避をしたい自分もいた。
クズな兄から「斑雪っ! 慰謝料どうしても耳を揃えて払えって言うんだ! あいつのバックにはヤクザがいるんだよぉ」と泣き付いてきたのは、数日前の事であった。
慰謝料といっても法外な金額で、とても斑雪一人で払える額ではない。
本当のところ、こんな兄はさっさと見切ってしまえばいいだけだった。
それでも、斑雪はどうしても兄を見捨てることができない。
どうしたらいいか悩み──……兄の言葉に従うしかなかった。
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