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正直なところバカだと自分でも分かっていた。
それでも、ヤクザがいつかウチまで取り立てに来るかもしれない。そしたら双子の弟妹が傷ついてしまう。
弟妹は本当にヤクザという人種が好きだった。
その理由は蒸発してしまった母親に起因する。
「これで……いいんだよね」
そんなことを呟き、自分に言い聞かせる。
自分が少しだけ我慢すれば、きっと全て上手くいく──そう信じたかった。
今の斑雪に縋るものはそこしかない。
部屋の中を見回して、自分の居場所を探すが、どこを見ても斑雪という女の子の『居場所』は存在しなかった。
そこに場所を設けられたのは、斑雪ではない。店に金を落とすソープ嬢なのである。
正直、斑雪は男の子と付き合ったことは無かった。もちろん初体験なんて想像の域な処女である。
ファーストキスに少しばかり夢を見る、そんな女子高生だった。
それが一気に段階を飛び越え、こんな透け透けな存在意義の分からないベビードールを身に纏い、何をしたらいいのかもわからないこの空間に立っていた。
今からどうしたらいいのか……そう考えると視界がうるんでくる。
そんな時、扉が静かに開く。
「なんだ、お前でもこんな境遇に立たされると泣くんだな」
そう言いながら入ってきた男に斑雪の視線が行く。
(あの人だ……)
上座で座っていた男性だと、斑雪は認識した。
上座に座っていた男……幽玄は、一人で部屋に入ると斑雪に目を遣る。
どうしていいのか分らず、居場所すら見つけられず、その場でオロオロしながら泣いていた。
幽玄はそんな斑雪を横目にソファーの方へ向かい、適当に座る。
「あの……私あなたと面識は無いはずのですが」
〝なんだ、お前でもこんな境遇に立たされると泣くんだな〟
この言葉の意味が分からず、おずおずと初対面だという事を斑雪は告げた。
「ああ、わりぃ。言葉の綾だ」
幽玄はそんな表現を適当な意味として返す。
そして改めて視線を斑雪にフォーカスし、全身を眺めニヤリと笑みを浮かべた。
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